2011年08月22日
Jono Bacon『アート・オブ・コミュニティ――「貢献したい気持ち」を繋げて成果を導くには』(オライリー・ジャパン)
オライリーの高さんに献本いただいた。
まず本書の存在を知った経緯の話から始めたい。ワタシが本書の著者である Jono Bacon のことを知ったのは、O'Reilly Radar で Can open source reinvent the music business? という記事を読んだのが最初だった。
この記事はタイトル通りオープンソースの流儀を音楽ビジネスに持ち込もうという著者が所属するバンド Severed Fifth の試みについて書いたもので、内容も音源は基本 CC ライセンスで配布とかなかなかラディカルなのと、文章から忠誠心のあるファンコミュニティを築いている自信を感じたのが興味をひき、いつか Wired Vision 連載で取り上げたいともう少し調べたら、彼が Art Of Community という本を書き CC ライセンスで公開していること、そして渋川よしき氏がこれを翻訳中であることを知り、邦訳が出たときに合わせて件の連載で取り上げようと思った次第である。
残念なことに本書の刊行を待たずに Wired Vision のほうが終わってしまい当方の目論見は崩れたわけだが、それはともかくワタシが言いたいのは、恐らくは本書を手に取る人の多くが事前知識として持ってるであろう著者の肩書き、つまり彼が Ubuntu のコミュニティマネージャなのを本書の刊行まで知らなかったということである。
考えてみればただのバンドマンが O'Reilly Radar に執筆するわけもないのだが、本書に対する期待が他の人とは少しずれていたかもしれない。要は技術系コミュニティ以外に広がる話を期待していた。
本書は、コミュニティに人々をひきつける原動力となる一体感がゴールとなることを説く第1章、コミュニティのスピードと成功の鍵を握るその戦略、構造、計画について説く第2章という最初のところが活気があって力強く、これは大変な名著かもと期待値が上がりまくった。
その後上で書いた本書の想定読者とワタシとの期待のずれが見えてきた。本書が主に参照するのは Ubuntu をはじめとするオープンソース界隈だが、例えば『オープンソースソフトウェアの育て方』よりそれ界隈以外にも開かれている(念のために書いておくと、それは『オープンソースソフトウェアの育て方』の失点ではない)。しかし、この本がどこまでオープンソース界隈の事前知識のある人を対象としているのか、技術系以外の読者を想定しているのか、本書の編集方針に少し疑問を持ったのも確か。もし、その手の知識を当然とするなら Emacs に訳注なんて必要ないし、そうでないなら例えば「レッシグのブログ」といったフレーズを投げっぱなしにすべきではなく、訳注でなくてもフルネーム補うなどやりようがあったのではないか。
それでも本書がこれまで文書化されなかったことに取り組んだ本なのは間違いなく、野心的な書名に恥じない本である。個人的に一番面白かったのは第9章「対立への対処」だった。それはトラブルへの対処こそがコミュニティ運営の一番難しいところだからだが、著者が「オープン」という言葉があまりにも濫用されているためこの言葉が嫌いだと明言しながら、しかしやはりオープンであらねばならないと書いているのが鍵ではなのかもと思った。
なお、本書の第11章は本書には含まれずオンラインでのみ公開されているので、本書を読了した人はこちらも読まれるのがよいだろう。