2008年06月16日
Joel Spolsky『BEST SOFTWARE WRITING』(翔泳社)
本書の担当編集者に献本いただいた。
原書については刊行当時に取り上げており、正直邦訳が出るのが遅いにもほどがあるという感じだが、何よりちゃんと邦訳が出るのに越したことはない。
本書はウェブに書かれたソフトウェアに関する文章集であり、16人もの著者の文章が読めるが面白いものが多い。原書刊行からのタイムラグはあまり気にならなかったが、これは編者の Joel Spolsky の選択眼によるものだろう。
その選択眼によりポール・グレアム、コリィ・ドクトロウ、アーロン・シュワルツといった当サイトの読者ならおなじみの面子も選ばれているが、マイクロソフトの現、元社員が6人も入っていて、このチョイスは編者ならではか(エリック・リッパートの「電球を替えるのにMicrosoft社員は何人必要か?」はタイトルで笑っちゃうが、短くもシリアスな内容である)。ロン・ジェフリーズについてのあんまりな著者紹介文、辛辣な本文の前書きにも編者の志向がはっきりでているが、これには異論のある人もいるだろう。
ワタシは3月に京都に遊びに行く新幹線の車中で本書を読み、結果その直後にお会いしたはてなの近藤社長に「これは『BEST SOFTWARE WRITING』に書いてあったことですが…」を連発してしまったが、ソフトウェアのプログラミングにおけるデザインの重要性からアウトソーシングに異を唱えるマイケル・ビーンの「プログラマのアウトソーシングの落とし穴」、タイトル通りのラリー・オスターマンの「ラリーのソフトウェアエンジニアリングの法則第2番:テストメトリクスでテスタを測定することはできない」、知識労働者のパフォーマンス測定が常に反生産的である理由を説くメアリー・ポッペンディークの「チームへの報奨」は、ソフトウェア企業のトップには読んでほしいところ。もちろん、これにも異論は出るだろうが。
あと個人的にちょっとアレっと思ったのは、クレイ・シャーキーのソーシャルソフト論がかつてほど面白みを感じなかった一方で、ダナ・ボイドのソーシャルソフト論は2004年の文章だから、MySpace や Facebook などその後の SNS の動きを補完する必要があるのに、読んでてはっとするところがあったので以下引用しておく。
社交的テクノロジーは仮名による参加を可能にしただけでなく、推奨さえした。今日でさえ、私たちは仮名をプライバシー侵害に対して身を守るツールとして扱っている。
なぜ私たちは人に、デジタルの世界では精神障害者のように振る舞うよう勧めなくちゃいけないのか? 私たちがそうするのは、既に慣れ親しんでいるアイデンティティを切り分けることの微妙なニュアンスを全く考慮しないテクノロジーを構築してしまったからだ。