2013年10月31日
渋谷直角『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社)
このあまりにも破壊力のある強力なタイトルの作品を知ったのは Hagex-day info においてだが、田舎暮らしのワタシは入手はできんかなと諦めていたら、タイトルそのままで扶桑社から単行本化されると聞いてさすがに驚いた。ワタシの周りで読んだ人の評判もよいので、今更だが帰省する際の電車のおともに Kindle 版を購入した。
表題作といい、「空の写真とバンプオブチキンの歌詞ばかりアップするブロガーの恋」といい、「ダウンタウン以外の芸人を基本認めていないお笑いマニアの楽園」といい、タイトルだけでご飯がいける強力さだが、冗談抜きで作品がタイトル負けしてないのに唸らされる。画は単行本化にあたり全面的に書き直されたようだが、それでもうまくはない。「口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事も女もぜんぶ持ってかれる漫画 (MASH UP) 」の「MASH UP」が、仲世朝子と土田世紀の画のマッシュアップのことだなんて全然気付かなかったくらいだ(少なくとも後者には)。が、登場人物とストーリーにこれだけ求心力があれば、画力は全然気にならない、という良い見本である。
強力なタイトルに負けてないということは、つまりは内容が破壊力があるということなのだけど、そのタイトルから連想していたサブカル糞野郎をただ見下し、唾を吐きかけるようなマンガにはなってないので読んで後味は悪くない。表題作が一番インパクトが強そうだが、実はそれ以外のほうが面白かったりする。
ただそう感じるのは、ワタシ自身の属性が本作に収録された作品の主人公に重なってないからというのもあるかも。そこらへんが被っていたら、かなりダメージをくらったかもしれない。もちろん本書の内容は辛辣で、気位が高く自分が好きなサブカルも結局は自己愛のためにあるような主人公は、そのあたりを容赦なく暴かれているわけで(表題作のラストなんてねぇ……)。
本作に魅力にディティールの書き込みがよくできているところがある。とにかく細かいところが面白くて、ネット関係のディティールや人名などの引き合いの出し方、引用のセンスなど参考にしてほしい人がたくさんいるね。
そのように楽しめた本書だが、「テレビブロスを読む女の25年」にいたって山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』のようなサーガ性に達するのである……はいくらなんでも言い過ぎですね、すいません。でも、Kindle 版を読み終わったら、この本を買った人は――の広告に『ここは退屈迎えに来て』が出てきたのには笑ってしまった。購入者が重なってるんですかね。
しかし、ポスト津田大介と言われるライター/編集者で、ニコ生やゲンロンカフェのイベントとかも出る案野丈って誰かモデルがいるんでしょうか(笑)。