yomoyomoの読書記録

2012年05月07日

Jeff Potter『Cooking for Geeks ――料理の科学と実践レシピ』(オライリー・ジャパン) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 原書を取り上げた関係でオライリーの高さんに献本いただいた。

 ワタシはてっきり本書のことをプログラマーを中心とするギーク層に向けた料理の入門書なのだと思っていた。何かと理屈が多いが、でも実際に手を出すとなると料理が不得手なギークが料理を始めるのに適した本だろうと。そういう側面もあるが、本書はギークに向けた料理指南書というだけではなく料理ギークにも向けられた本である。要は料理の初学者だけを対象としておらず、なかなか本格的なつくりになっており、それにワタシはいささかたじろいだ。

 ワタシも昔料理とプログラミングの共通性について「クックとハック」という文章を書いたことがあるが、本書も随所に料理をプログラミング関連用語で表現していてニヤリとさせられる。しかし、料理の下ごしらえをキャッシュのプライミングにたとえているのにすぐピンとこなかったのは、ワタシのデータベースについての理解が足らないということか。一方で包丁を研ぐことをファイルのバックアップにたとえているのは上手いと思った。いずれも初心者がやりたがらないという意味で。

 そうしたなかなか目線の高い本で、調理台のレイアウトについてクリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』が引き合いに出されるにいたってのけぞったが、一度読んで終わりではなく、折に触れ後から何度も立ち戻れる内容のある本といえる。考えてみれば、オライリーの書籍はそう(であるべき)ではないか。

 本書は料理で考慮すべき要素別に章分けされており、その中にさらに各章のテーマに則したインタビューが掲載されており、これが楽しく読める。インタビューイはその筋の専門家が多いが、それに混じってアダム・サヴェッジ(「怪しい伝説」)ジーニ・ジャーディン(Boing Boing)、カテリーナ・フェイク(Flickr 共同創業者)、メグ・ホーリハン(Blogger 共同創業者)、ネイサン・ミアボルドといったオライリーの本ならではな人選のギーク側の人たちも入っており、なんとティム・オライリーが語るスコーンとジャム作りのコツまであるぞ(笑)。

 インタビューイの一人であるアダム・ライド(キッチン器具のスペシャリスト)は「私が気付いていなかったことの1つに、料理の背後に存在する科学的事実を理解することは非常に重要だということがあります」と語っているが、本書はその点をしっかり踏まえた本で、遺伝子組み換え食品についての穏当なスタンスにもそれを感じ、ワタシは好感を持った。

 そして、何よりこれを強調しなければならないのだが、本書はそうした理屈を語りながらも、同時に失敗を恐れることはない、失敗したっていいから作ってみよう、と料理の実践を後押しする本である。著者は「料理を学ぼうとするギークは、細かいことにこだわりすぎて全体像を見失い、とにかくやってみるとか、楽しむということを忘れているような気がします」と語っているのもそういうことだろう。もちろん料理のリスクについてもちゃんとページが割かれており、個人的には食中毒についての記述にいろいろ怖くなったりもした。


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