2006年11月17日
安田理央、雨宮まみ『エロの敵 今、アダルトメディアに起こりつつあること』(翔泳社)
本書も翔泳社のモーリさんより献本いただいた。
当方のエロメディアとのかかわりについては、昔永沢光雄の『AV女優』の読書記録を書いたときに少し触れたが(お亡くなりになりましたね、永沢さん)、今ではブロードバンドインターネット接続を通じて無料で得られるエロ画像、動画で大方満足している程度の人間である。
本書の著者の一人である雨宮まみさんの文章は、はてなダイアリー移転前の NO! NO! NO! 時代に切実に読ませてもらっていた。当時の氏の文章の印象もあり、また攻撃的にも読める書名の印象から、鬱憤を吐き出すような主観的な本かなと読む前に勝手に思っていた。
しかし、本書は安田理央さんによる紙メディアについてのパート1、雨宮さんによるアダルトビデオについてのパート2、そして安田さんによるインターネットを中心とした前記以外のメディアについてのパート3のいずれも、法規制、流通、制作者、そしてユーザの関係を適確におさえた客観的なものである。だからといって本書が退屈ということはない。エロメディアの栄枯盛衰、エロに対する認識の変化のストーリーが、当方のような門外漢にもすんなり理解できるのはとてもありがたかった。
冷静な筆致はパート1で顕著だが、最後にはそれがエロ雑誌の中でライターとして育った安田さん自身にも向けられる。パート2の雨宮さんのパートは、例えば松本和彦の注釈に見られるようにもう少し主観寄りだが、その分記述が細かくて楽しめる。
本書は NET TRAVELERS 200X シリーズの一冊であり、それを言葉通りにとらえるならパート3しか合致しないような気もするが、紙媒体にしろアダルトビデオにしろネットにしろ、いずれも結果的に極めて高品質なエロが存分に提供されるようになり、しかし同時にその希少性が失われ、「エロが、蛇口をひねれば出る水のような、ありふれた状況下」でそれにお金が落とされなくなくなったという本書の皮肉でシビアな結論は、今後のインターネットと経済の関わりに重要な示唆を与えている……かはともかくとして、とにかく読ませる本であった。