2016年12月12日
柏木亮二『フィンテック』(日経文庫)
ブログで取り上げた関係で、著者より恵贈いただいた。よってワタシが読んだのは紙版だが、Kindle 版もあるよ。
本書のタイトルになっている「フィンテック(FinTech)」という言葉については、ワタシなりに追っかけてきたつもりだが、悲しいかなワタシはお金周りの話全般が苦手で、そんなボンクラなワタシは一冊読んでおくべき本だった。
この IT を活用した金融サービス事業を指す「フィンテック」という言葉、もちろんアメリカ発のブームなわけだが、その背景となる「金融包摂(ファイナンシャル・インクルーション)」の意識、そしてリーマンショックの影響、ミレニアル世代の台頭、そしてスマートフォンとソーシャルネットワークの普及などのそのブームの必然性を解説してくれるが、アメリカの四大銀行すべてがミレニアル世代に徹底的に(歯医者以上に!)嫌われており、Google や Amazon や Apple なんかが金融サービスやってくれたほうがグッとくるというところまできていること、そしてそれを支える手足となるスマートフォンと SNS の普及、受け皿となる企業の IT システムの変化があるわけだ。
もちろん金融+IT という考え方はこれまでもあったが、「フィンテック」という言葉が取りざたされるのは、単なる金融+IT なサービスではなく、既存の金融事業にとって破壊的なサービスを提供する新興企業がいくつも登場しているからなのだ。
その上で、本書ではフィンテックの進化を、IT による金融の効率化→金融サービスの破壊的存在による分解→API による機能と情報の部品化→新たなエコシステムの元での金融サービスの再構築という四つの段階を FinTech 1.0 から 4.0 として段階的に解説してくれる。そしてその過程で、AI(人口知能)やブロックチェーンや IoT といった「フィンテック」と同じくバズワード化した言葉も、それが引き合いに出される必然性をもって語られており、そのあたり巧みである。
著者も語っているが、「フィンテック」という言葉をめぐる状況を考えると、クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』にいきつく。上に「破壊的」という表現が何度か出てくる通り、フィンテックの代表的な新興企業は、(現在の銀行など主要プレイヤーによる堅牢だが鈍重な)金融サービスにとっての「破壊的イノベーション」の担い手なわけだ。
ただし、金融分野は他の小売事業と異なり法規制など、持続的イノベーションの提供者である既存のプレイヤー以外にも壁が明らかに存在するし、既存のプレイヤーも状況に自覚的であり、フィンテックへの集中的な投資も見られる。
ひるがえって日本はどうかという話になると、国によって既存プレイヤーの事情も利用者の事情も大きく変わるという話は本書でもちゃんと書かれており(フィンテック先進国であろうアメリカにしても、9000万人ぐらいが500ドル以下の貯金しか持ってないという記述を読むと、誤植? となるわな)、日本は遅れているといたずらに言い立てるようなことは著者はしない。ワタシ自身上にも書いたようにお金周りの話は不得手で、この手の話になると保守的になってしまうのだが、そういう人間からしても本書で語られる海外の事例を読むと、やはり危機感をもってしまうわけだがね。