yomoyomoの読書記録

2011年11月28日

Jessica Livingston『Founders at Work 33のスタートアップストーリー』(アスキー・メディアワークス) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 原書を取り上げた文章を書いたことがある関係で、アスキー・メディアワークスの鈴木さんから献本いただいた。

 自分の文章で原書を取り上げた時点でもいつになったら出るのかという感じで、それからも何年も経っているが、たまたまワタシは本書の作業進行が鈴木さん並びに訳者の大変迅速な仕事によりなされたのを知っている。悪いのは、2006年に10社競合の末に翻訳権を獲得しながら邦訳を出せなかった某社である。

 さて、改めて訳書を読んでみたがサラッと読み流せる本ではなく、とても貴重な証言集で、気になった箇所に付箋をつけていったら数十箇所になってとても普通の読書記録におさまらないと頭を抱えている(この読書記録でもいくつも引用させてもらうが、それに収まらないものも多いので、今後はてなダイアリーのほうでもぼちぼち紹介していきたいと思う)。

 ただすべての創業者の話が一様にためになるわけではなく、正直言って70〜80年代起業組の人たちの話は、歴史的史料としてはともかく、スティーブ・ウォズニアックを筆頭に長い話の割にはそれほど参考にならないかもしれない(例外は Adobe Systems のチャールズ・ゲシキぐらいか)。やはり話としては90年代以降のインターネット時代になってからの人たちのほうが圧倒的に面白いし、身近に読むことができる。

 そうはいっても本書を通じて多くに共通するポイントが浮かび上がってくることは確かで、例えば起業の最初のアイデア自体はそれほど重要でなく、むしろ本当にやりたいことのために製品(サービス)をどんどん変えることも必要だということ。

本当に優れた起業家は、1個の会社を作ろうとするものではないと思っています。少なくとも、私が考える起業家精神というものは、だれか他人のためになど働いていられないということに気付くことです。そうしたら、自分のための仕事を始めなければなりません。それが何かは、ほとんどどうでもよいことです。私たちはビジネスプランを6回変えて、最後にペイパルにたどり着きました。(Paypal 共同創業者、マックス・レブチン)

年数が経つうちに、最初のアイデアは何でもよいということを学びました。それは会社を始めるための触媒のようなものです。そのうちに、アイデアの問題点がわかり、否定、パニック、後悔という段階を通過します。その経験により、最初のものよりもよいアイデアが浮かびます。この第2のアイデアこそが大切なものです。(Marimba 共同創業者、アーサー・ヴァン・ホフ)

 そして日々の経験が学びの連続であるが学んでばかりでは駄目で製品を先に進めなければならないということ。

毎日どの時点でも、6、7件の火事と戦っているようなもので、しかも戦いながら同時に家の青写真も作っているような状態でした。ですから、ビジネスを構築しようとしながら、その日の緊急事態に対処するというような感じでした。(Lycos 創業者、ボブ・デービス)

 そして何よりいろんな形で苦難は押し寄せてくるし起業は楽なもんじゃないということ。本書は読んでて胃が痛くなるような苦難がいくつも語られている。

ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の同窓会に行ったとき、起業家になったことのある卒業生だけが集まったテーブルができました。そこで1人の教授が「HBSが君たちに教えなかったことは何だろうか?」とたずねました。私は、「苦しさです」と答えました。(Tickle 創業者、ジェームズ・カリエ)

 本書を読む前は、原書刊行時に最高潮の状態にあった「Web 2.0」企業の創業者のインタビューが多く、今読むとズレを感じないか心配だったが、確かに Bloglines のように原書刊行後ぽしゃったサービスもあるが、それとインタビュー内容の価値はまた別である。

 何しろ30人以上の証言を集めた本なので多様性があり、今も自主独立でやってる人、大手に買収された人、その大手を始めた人、大成功とはいえなかった人などいろんな例が収められているし、ダン・ブルックリンの後にミッチ・ケイパーとか、フィリップ・グリーンスパンの後にジョエル・スポルスキーとか、順番も考えられている。Google の "Don't be evil" という(今となってはちゃんちゃらおかしい)スローガンが生まれた背景、あと Yahoo! 失速の種子とも言える考えが読み取れたり、いろんな読みどころがある本である。

 個人的には、マックス・レブチン(Paypal)、サビール・バティア(Hotmail)、エヴァン・ウィリアムズ(Blogger)、マイク・ラムゼー(Tivo)、ミナ・トロット(Six Apart)のインタビューが特に面白かった(そういえば Six Apart については、数年前平田大治さんに出資をする立場からの話を伺ったっけ)。ニューヨークにはあまりスタートアップがないと言われて不愉快さを露にするジョシュア・シャクター(del.icio.us)や、サービス内容が才能と教育を無駄に使ってると言われて色をなして稚拙な言葉で反論するジェームズ・ホン(Hot or Not)など感情が露に出ているところもよかったね。

 あと本書を読んで、「失敗」に分類されると思ってた WebTV が実はそうとばかりも言えないことを知って興味深かった。もちろん創業者は自分が始めた会社を大きく見せようとするだろうことは差し引くべきだが、WebTV の SONY との取引の話は興味深かったし、どきどきしながら読んだ。


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