2012年01月23日
デイヴィッド・ミーアマン・スコット、ブライアン・ハリガン『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)
原書刊行時に話題にしていて、本書刊行時にも取り上げた関係で(たぶん)訳者の渡辺由佳里さんから献本いただいた。
というわけでワタシは原書も持っているのだが、邦訳のほうが装丁に力が入っていて、こちらのほうがお得ですよ、奥様。
本書がかなり売れてるらしいという話を聞いて、正直面食らっている。だって日本にグレイトフル・デッドのファンってそんな多くないだろ? 山下達郎なんか「世の中で一番嫌いなバンド」(「CUT」1991年7月号)とまで言ってるぜ? しかもそのデッドにマーケティングを学ぶなんてヘンな本だぜ?
正直に書くとワタシも熱心なグレイトフル・デッドのファンではない。しかし、ライブ演奏がツボにはまったときに催眠術的魅力、そしてデッドヘッズと呼ばれる大量の強固なファンベースを構築してきたことは承知している。
本書を読んでいて、ワタシは奇妙なダブルバインドの感覚に囚われていた。つまり、デッドの魅力は承知しているので本書の著者がデッドを愛する気持ちはよく分かる。そして彼らの方法論は、確かに現在のウェブ企業の一部の良質なユーザ層拡大の方法論に見事に通じている。しかし一方で、自分たちが常識としているマーケティングの方法論はそれとはまったく異なる価値観で仕切られており、自分自身サラリーマンとしてそれを受け入れている。しかし一方で、ワタシ自身は10年以上こういうウェブサイトをやりながらネット活動をしてきた人間として、著者たちの主張は全然不思議なものではないのだ。しかし一方で……
本書が売れているのは面白いことだと思う。しかし、本書は日本企業のマーケティングに何かしら実際的なインパクトを与えるのだろうか? それが気になるところである。ウェブスタートアップが得るところが多いのは予想の範疇なので、それ以外のところに影響があってほしいなと思う。
そういうわけで共著者の前著『マーケティングとPRの実践ネット戦略』に通じる活気と勢いがある文体が読めて楽しかったが、ロックバンドと企業活動の類似性という点では、ローリング・ストーンズに学ぶ冷血バンドマネージメント(例えばロン・ウッドは、1976年に「正式加入」したとされるが、その後1989年まで契約上の正式メンバーでなく、言うなれば非正規雇用待遇だったそうだ)という本のほうが日本企業のエグゼクティブには受けがいいのでは、と性格の悪いワタシは思ったりした。