yomoyomoの読書記録

2016年11月06日

オリヴァー・サックス『サックス先生、最後の言葉』(早川書房) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 昨年惜しくもなくなったオリバー・サックス先生だが、本来彼の生涯の業績を辿るなら『道程:オリヴァー・サックス自伝』を読むべきところを本書を選んだのは、彼がニューヨーク・タイムズの発表し、朝日新聞に転載されたのをワタシも読んで感動した「わが人生」が本書に含まれているのを知り、本書がその死に向かう自分についてのエッセイ集であると考えたからで、値段から読みやすい程度の分量だろうと、深い考えなしに Amazon でポチっとやったわけである。

 確かに読みやすい分量の本だったのだが、というか読みやすすぎる。つまり、ページ数が少なすぎる。思い切りゆったりとした文字構成の60ページぐらいの本が1500円――あまり書きたくはないが、これは詐欺的値付けではないか? 書誌情報を購入前に確かめることの重要性を再確認させてもらったよ。Kindle 版もあるが、本書の場合値段差はあまりないので、電子書籍版が特にお得ということもない。

 内容的には文句はない。サックス先生の周期表への愛情が分かる「水銀」、「私の周期表」にしろ、涙なしには読めない「わが人生」にしろ、本当に心を砕いて書いたのだろうなと思わせる、著述家としてのサックス先生最後の文章に相応しい「安息日」にしろ、いずれも珠玉と呼ぶにふさわしい文章である。

 ワタシ自身の事情について少し書いておけば、本書を購入したのは、著者と同年代であるワタシの両親のやがてくる死と向かい合うのに本書が何らかの助けにならないかと思ったところがあったからだ。それについて本書が助けになったかはここには書かないが、以下の感慨は彼らも思っていたもののはずだろう。今のワタシにはそれしか書けない。

 この一〇年ほど、だんだんに同年輩の人たちの死を意識するようになっている。私たちの世代は去ろうとしていて、誰かが亡くなるたびに、まるで剥離(はくり)のように、自分自身の一部を引き裂かれるように感じる。私たちがこの世を去れば、私たちのような人間は誰もいなくなるのだが、そもそもほかの人と同じような人間などいないのだ。人が死んだとき、誰もその人に取って代わることはできない。埋められない穴が残る。なぜなら、ほかの誰でもないひとりの人であること、自分自身の道を見つけること、自分自身の人生を生きること、自分自身の死を迎えることは、あらゆる人間の運命――遺伝学的・神経学的運命――だからである。(31ページ)


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