2008年01月15日
内田麻理香『恋する天才科学者』(講談社)
カソウケン(家庭科学総合研究所)でおなじみの著者二冊目の本である。前作『カソウケン(家庭科学総合研究所)へようこそ』は、著者の理系者らしい楽になれなさが細部まで行き渡った読み応えのある本だった。本作はもう少し気楽に読むことができる。当方が元々この手の人物伝が好きというのもあるが、読んでいて楽しくて、最後のファインマンまで来たところでこれで終わりなのかと寂しく思ったほどである。
本書は「恋する天才科学者」と銘打ちながら、取り上げられるのは全員男性である。これを男性の著者がやったら嫌味の一つも言われるのかもしれないが、本書のまえがきにも書かれているように、書名の「恋」には著者自身が恋に落ちた科学者たちへの憧れという意味も含まれているとのことで、それが単なる方便ではないのは本書を読めば分かる。
本書では16人の天才科学者が取り上げられており、彼らの「恋」のあり方はまさに16通りである。アインシュタインを筆頭に、お世辞にも立派とは言えない話がいくつも出てくる。そうした下半身のだらしない科学者には、著者の呆れながらも温かい母的な視座を感じる。確かにこの「ダメ要素こそ男の魅力なり!」という視点は、男性に対してでないと発揮できないものなのだろう。
科学者の業績を伝えるという面も当然ながらちゃんとしているし、お勧めできる快書である。その美点は、著者の何度も「イケメン」を連呼しながら自分は面食いではないといけしゃあしゃあと書く厚顔さ、化学メーカーの女性社員が一部の理系出身者の男性を『昆虫くん』と虫けら呼ばわりするのを「絶妙なネーミング」と面白がってみせる、当方からすれば呆れ返るような感覚をも補って余りあるものである。