2005年02月10日
田口和裕、松永英明、上ノ郷谷太一『はてなの本』(翔泳社)
株式会社はてなのサービスをメインに扱う書籍は既に二冊刊行されているので、本書は三冊目のはてな本ということになるが、前二冊とはまた違った作りとなっており、結果的に三冊が見事に共存書足りえているのを他人事ながら嬉しく思った。
上のように書くのは、それはやはりはてなを応援したい気持ちがワタシにあるからで、その気持ちを隠すつもりはないし、そうした人間にとって本書は魅力のある本だと思う。本書は、「ネットトラベラーズ 200X」シリーズの先陣を切るものである。実は当方は、その元となった「ネットトラベラーズ '95」を読んだことがないのだが、およそ十年前にインターネットにおける「個人サイトのパワー」を正面から見据えたムックの名前を復活させることに編集者の強い意気込み、良い意味での衒気を感じるし、それは横書きの SIDE A と縦書きの SIDE B の二つからなるユニークな構成にも出ているのではないか。
テラヤマアニさんによる序文、近藤淳也株式会社はてな社長インタビュー、そして「はてなダイアリーのコミュニティと運用」からなる SIDE B は、文句なく素晴らしい。松永さん、良い仕事してますね。
本書の目玉であり、またワタシが一番期待したのは、やはり近藤さんのロングインタビューなのだが、これが他の近藤さんの文章やインタビューと同様、読んでいて力づけられる清廉なものになっている。しかもちゃんとしたストーリーの見えるインタビューになっているのがよい。tDiary、Wiki、関心空間、といったものとはてなダイアリーとの関わりがしっかり語られており、またこれまではピンと来なかったキーワード関係の(失敗を含む)試行錯誤の流れというか、はてなの意図が分かったのも個人的にありがたかった。
当方は近藤さんに二度お目にかかっただけで親しいわけでもなんでもないが、本当に近藤さんは、こうしたインタビューや文章に出る人物像そのまま、つまり肩の力の抜けた理想主義の人なのである。テラヤマアニさんの文章を借用するなら、「これを見てはてなのファンにならないほうがどうかしてる」とまで言いたくなるインタビューである。
あとこれもちゃんと書いておかないといけないのだが、本書に掲載されたはてなのマスコット犬しなもんの写真がどれも素敵なのだ。あーもう、しなもんに滅茶苦茶にされたい!(アホか)
SIDE B と比べると、SIDE A はどうしても見劣りしてしまうというか、どことなく「薄い」感じがしてしまう。SIDE A の表紙からイメージするような、はてなのシステムを精緻に解き明かすものにはなっていない。もちろん、押さえるべき内容はちゃんと押さえられている。
特徴としては、Appendix B における200ものテーマの見た目を一望できる「テーマ・カタログ」とあわせ、はてなダイアリーのスタイルシートによるデザイン関係に力が入っている印象がある。もっとも本書の後にもはてなダイアリーには、多くのテーマ、そしてモジュールが追加され続けているおり、そうした意味で編集者泣かせのシステムに違いないが、できる限り最新の情報に追従しながらちゃんとまとまったものを作ろうとしたのだろうなというのは伝わる。
ところで「はてなダイアラーが選ぶはてなダイアリー百選」はどうなったんですか、モーリさん。
さて、本書の内容から外れるがこれは触れておかないといけない。本書が「ネットトラベラーズ 200X」シリーズ第一弾であることは上に書いたが、続刊予定として、津田大介さんの『誰が「音楽」を殺すのか?』とばるぼらさんの『教科書に載らないインターネットの歴史教科書』がエントリされている。前者については既に詳細が告知されているが、どちらも今からかなーり楽しみで、当分「ネットトラベラーズ 200X」シリーズから目が離せない。