yomoyomoの読書記録

2006年05月06日

ジェフリー・S・ヤング、ウィリアム・L・サイモン『スティーブ・ジョブズ 偶像復活』(東洋経済新報社) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 刊行時に買ってざっと斜め読みしていたが、週刊ビジスタから「スティーブ・ジョブズ今昔物語」の依頼を受けて慌てて読み直した本である。もっとも原稿は一日で書き終えたのであまりその役には立たなかったのだが、その後も本書は楽しくじっくり再読させてもらった。

 本書はスティーブ・ジョブズという矛盾に満ちた強烈な人物の過去と現在を概観できる本である。かなり話題になった本なので、内容がマンセー一辺倒でないという情報は流通していると思うが、プロローグにあえてかつての盟友スティーブ・ウォズニアクも涙した感動的な場面をもってきながら、本編は(後に Yahoo! や Google の起業にも関わる)マイケル・モリッツの『The Little Kingdom』の系譜に連なるシビアな指摘を含む本であり、ジョブズが本書をアップルストアから排除したというのもさもありなんと思う。

 そうした意味でよく書けた本だとは思うし、本書を読んで知ったジョブズのアレな逸話は多い。ただワタシ個人が期待する話の充実度で評価した場合、本書後半のクライマックスとなるのがディズニーの支配者マイケル・アイズナーとの暗闘というのも確かに面白くはあるが、ちょっとズレていると感じたのも確かである。それに NeXT マシンにかつて心酔した人間としては、NeXT に対する完全な失敗という本書の評価はちょっと悲しいなぁ。あと『デジタル音楽の行方』訳者的には、第11章「iPod、iTunes、故に我あり」を再読することになるだろう。

 アップルという企業のインサイドストーリーについてはそれを中心的に扱った本を読むのがよいのだろう(例えば、初代マッキントッシュ開発の裏話であれば、本書と同時期に邦訳が刊行されたアンディ・ハーツフェルドの『レボリューション・イン・ザ・バレー』)。


[著者名別一覧] [読観聴 Index] [TOPページ]


Copyright © 2004-2016 yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)