2007年02月26日
レイモンド・チャンドラー『湖中の女』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ずっと前に買っておいた文庫本だが、もうすぐ村上春樹による『長いお別れ』の新訳が刊行されるので、その前にマーロウと再会しておこうと手にとった。
チャンドラーの研究家に本作がどのように評価されているかは知らないし興味もないが、本作はチャンドラーを読んだことのない人が手始めに読むのに良いのではないかと思った。
理由は二つある。一つはマーロウの目から見た細かく、独特の比喩が用いられる描写と、それと対を成す一人称小説にも関わらず事件に関する推理を内的独白で一切明かさない外的焦点化の対比を味わえること。まぁ、これは本書の話だけでないが。
そしてもう一つは、探偵が後ろ暗い稼業であることを示す、探偵を蔑視する台詞が相手を変えて数人によりなされることで、これを読んでハードボイルドってダンディーでニヒルだよねといった(ワタシからすれば訳の分からん)誤解をすることもないだろう。
後半失速する欠点は本書にもあるが、それでもミステリーとしての面白みと緊張が一応最後まで保たれているのもポイントが高い。
本作は第二次大戦中に書かれ、発表されたものである。訳者あとがきに書かれるように、本作における戦争への触れ方はヒステリックなところはなく、ヘンな表現になるが、享楽性をちゃんと含んでいるという意味で落ち着いたものである。こんな国と戦争しようと考えること自体無茶だったんだよなぁ、と本書の内容と関係ないことを思ったりした。