2005年12月21日
田丸昇『将棋界の事件簿 現役棋士の実話レポート』(毎日コミュニケーションズ)
将棋界ゴシップ好きの当方としては興味をそそられるタイトルで、しかし田丸昇という現役棋士(八段)が書いた本なのだからえげつなく突っ込んだ話もあるまいと買って読んでみたが、実際のその程度の可も不可もない内容だった。
それでも名人戦が朝日から毎日に移った前後の話は興味深かったし、それに関連して河口俊彦の『大山康晴の晩節』の中にある「牛丼の恨みを忘れるな」の話に関して、問題の朝日新聞記者の実名を挙げて擁護しているのは面白かった。
本書にかかれる有名棋士の話は読んでいて楽しいが、本書でしか読める話は特にない。それでも山田道美が現代的な研究法の基礎を作ったというのを再確認できたのはよかったし、昭和40年代から最近の瀬川晶司氏のプロ入り問題まで将棋界の主要事件を網羅しているのは確か。
ただ著者自身が振り回された林葉問題に関しては苦々しさに筆が鈍るようで、おい、ちゃんと中原誠永世十段の名前を挙げろよ、と思ったりした。そうした甘さは感じる本で、例えば、対局中の外出禁止とカンニング問題についての文章を、
今のところ、連盟が対局中の電子機器の持ち込みを規制する動きはない。やはり棋士の良識に任せるしかないと思う。(147ページ)
としめているのは甘いと思う。この問題はもうすぐにでも表面化するだろうと予測しておく。