yomoyomoの読書記録

2014年09月07日

後藤元気編『将棋自戦記コレクション』(ちくま文庫) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 『将棋エッセイコレクション』に続き、筑摩書房の伊藤さんより献本いただいた。

 本書は将棋の観戦記の中でも対局者自身が筆をとった自戦記を集めたもので、プロ棋士だけでなく、アマチュア、女流棋士と多彩な執筆者の自戦記が選ばれている(それでいて、大山康晴十五世名人以降に名人になった人の将棋がほぼ網羅されている!)。『将棋エッセイコレクション』において団鬼六の弔辞を書いていた行方尚史による団鬼六との角落戦の自戦記が収録されていたり、河口俊彦の対局日誌に対する反論文を寄稿していた桐谷広人(そう、あの株主優待の桐谷さん)がその後の順位戦における先崎学とのいわくつきの一戦について書いていたり、編者が同じだけあって、『将棋エッセイコレクション』と対になっているところがある。

 また西山実と伊藤能の並び、新手一生を旗印とする升田幸三が「升田式石田流」を採用した名人戦の自戦記の後に久保利明が石田流で新手を出した将棋を並べたり、最後の佐藤康光と渡辺明の並びなど文章の並びも当然ながら考えられている(もう一つ思わず笑ってしまった並びもあるのだが、ここには書かない)。

 よって単純に優れた将棋、大一番の将棋の自戦記ばかりを集めたものではない。将棋としてもっとも高度で見応えがあるのは、最後の佐藤康光と渡辺明による二局になるのだが、多くの将棋ファンに読みどころのある本だろう。個人的には若かりし頃の米長邦雄のかなり正直な文章が面白かったが、一方で同じく名人経験者では谷川浩司がかなりきついことを書いていて、谷川さんのように育ちの良さを感じさせる人でも当然ながら将棋に関しては圭角があるのだと感じいった。

 あとこういうコレクションに林葉直子の文章が入っているのに驚く人もいるだろう。思えば、長らくワタシが会ったことある棋士って林葉さんだけだったんだなぁ……彼女の自戦記を読むと、本当に彼女が直感の人だったんだなと思うし、冒頭の中井広恵との会話を今読むと切なくなるものがある。

 まぁ、ワタシの場合はアレですね、前田祐司、田中魁秀、青野照市といった中年棋士のお世辞にもかっこよくない自戦記が読んでて一番沁みたわけだが、ワタシ自身そういう年代に入ってしまったということなのだろう。ワタシよりずっと年下の編者がこういう文章をよく選んでくれたものだと思った。


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