2009年04月20日
深町秋生『果てしなき渇き』(宝島社文庫)
いつもブログを愛読している著者のデビュー作にして『このミステリーがすごい!』大賞受賞作である。
以前に買って読んでいたのだが、そのときは精神的に読書記録を書ける状態でなく、最近たまたま再読する機会があったので感想をば。
久しぶりに読んだがやはり面白かった。おぞましい惨劇を主人公が目の当たりにするところからはじまり、行方不明になった女性を探すというミステリーとしてオーソドックスなストーリー展開になりそうで、この元刑事の訳ありな主人公が頼れる語り手の立場から転落の度合いを増すのにあわせて物語のドライブ感も増していくところがたまらなかった。
本作は途中から、国道16号線、17号線沿いに展開する郊外ノワール(なんて言葉があるか知りませんが)としての破壊的な追走劇と、中学生の男性生徒の独白が対比される形式を採るが、この二つが単なる動と静の対比でも、片方が片方の謎解きとして奉仕するだけでもなく微妙に並走し、本書の裏の主人公である失踪した主人公の娘の存在を浮かび上がらせるところが巧みだと思った。
本書は徹頭徹尾ひどい話ともいえるわけで、好き嫌いがはっきり別れる本なのだろう。ただ(意外な)登場人物を尋ねることで真相が明らかになるというミステリーの物語構成に回帰し、でも犯人が分かって一件落着なんてのに程遠いエピローグが見事な締めになっている。
最後に一つだけ難癖をつけさせてもらうと、アポカリプスのパーティの場面だが、いまどきの若い奴で「ホテル・カリフォルニア」の例の歌詞を引き合いに出す奴なんかいないっしょ。ここだけは失笑してしまった。