2011年06月20日
成松哲『kids these days! vol.1 いまどきの10代に聞いたリアルな「けいおん!」の話!』
著者の成松哲さんに献本いただいた。
著者とワタシは同学年で、考えてみればいまどきの10代がどんな音楽を聞いてるかなんてまったく知らない。ある時期から著者が Twitter 上で高校の文化祭に出演するバンドのレポートをツイートし出してどうしたんだろうと思っていたが、後に本書の構想を知って以来楽しみにしていた本である。
ワタシ自身もう現役のロックリスナーではなくなっている自覚はあるが、年寄りの悪い癖で今でも自分はロックに一家言あるという意識が抜けず、著者が「はじめに」に列挙する10代向け音楽フェスを一つも知らないのに愕然とした。そうした意味で本書を読んで楽しめるのか不安でもあったが、それは杞憂で、大層楽しませてもらった。
それは本書でインタビューされている5組のバンドがどれも魅力的だからだろう。一つとして同じバンドがない。ミケトロイズの軽音楽部にあるチャラいイメージを粉砕するスパルタ話も攻撃サイダーの普通ではありたくないという志向性の話も CRAZY WEST MOUNTAIN のデジタルネイティブらしいネット活用話も(そうだ、ワタシは『デジタル音楽の行方』の訳者だったんだ…)、インタビュー中にドラム脱退が発表され、仕切り直しインタビューでもそれに劣らないインパクトのある事件が語られる(Still Flag 改め)スカートの中のとっちらかりぶりもどれも面白かったが、真打は挫・人間で、同じ九州出身で「地方でサブカルをこじらせること」が親近感ある話題だったこともあるが、とにかくこいつら(と勝手に親しみをこめて言うが)の話がいちいち笑えて、電車の中で読んでいてもうどうにもならなくて、途中から遠慮せず満面の笑みを浮かべながら読ませてもらった。
本書は三段組なのだけど、1ページに1箇所どころでなく段に1箇所は笑いどころがあるというすごいインタビューである。挫・人間、半端ねぇ…。メロコアは黒歴史とかジョン・レノンになると高校を辞めて毎日2ちゃんねるを見てました! とか「彼女はホールデン」とか「挫・人間の音楽を聴いてる女の子はほぼブサイク!」とか「新歓ライブに行ったら、ギターの上に魚を乗っけてる様子をただただ10分間観るハメになった」とか名言連発で、本書を読んでない人にはさっぱり伝わらないだろうが、これを書きながらやはりニヤついてしまう。
本書を読んで良かったと思うのは、読む前には予想もしなかったことだが、いまどきの10代に対して肯定的な気持ちになれたことだ。例えば、挫・人間のこじらせぶりと CRAZY WEST MOUNTAIN の「こう見えて、オレたち、友だち多いんですよ(笑)」という余裕が両極端なように、本書に登場する若者(90年代生まれなんだな!)は一様ではない。しかし、彼らがおよそ20年前の自分なんかよりずっとしっかりしているというのを別にしてもそういう肯定性のある本だと思う。何より彼らの音をちゃんと聴きたくなったし。
実際いまどきの高校生バンドがどういう曲をコピーしているかという著者のフィールドワークもちゃんと活かされており、「(いい意味で)マヌケなチャットモンチー」、「典型的な中二病患者ども」といった具合にインタビュー相手をかっとばした表現で形容するだけでなく注釈など細かいところも楽しい(ツインドラムのバンドの例に MINAKO with WILD CATS を挙げてる人を初めて見た)。何よりバンドのあり方について一席ぶって10代女子に考え方を誉められ、「おっ、なんかモテた(笑)」と喜ぶ著者のチャーミングさが本書の肯定性を引き出したのかな、とモテないおっさんであるワタシは嫉妬した。