2010年10月28日
「新潮45」編集部『殺人者はそこにいる―逃げ切れない狂気、非情の13事件』(新潮文庫)
罪山罰太郎さんのブログで「将棋が分からなくても楽しめる将棋の本4冊+α」の+αとして勧められていたので買ってみた。
執筆者をみると『真相はこれだ!―「昭和」8大事件を撃つ』が良かった祝康成がいくつか書いていて期待したのだが、あの本のような面白さはなかった。正直本書を買ったこと、読んだことを後悔している。
それは本の内容を考えれば不思議なことではないのかもしれないが。
ワタシのお目当てだった森安秀光九段刺殺事件は冒頭におかれているが、肩透かしというかこれで終わり? という感じで(それにしても彼の死後の扱いはひどい……)、その後も煮え切らない事件の話が続いて何だかなと思ったら、第一部が「未解決事件」を集めたものだから当たり前だった。そして、その後は読むにつれて気持ちが沈み、嫌気までさしてきた。
本書を読んで痛感するのは、誰が言ったかは忘れたが、「人間の賢さには限界があるが、愚かさには限りがない」という言葉である。明らかに犯人と思しき容疑者がのうのうと逃げ延びたり、無期懲役で出所した男の予想できたお礼参りを止めることができないなど本書の事例を読むにつけ暗澹たる気持ちになるとしか書きようがない。改めて思うのは、人間の愚かさに限りがない以上、更正のしようがない悪が存在するという厳然たる事実である。
非常に嫌な書き方になるが、井の頭公園バラバラ殺人事件や名古屋妊婦切り裂き殺人事件といった猟奇的な事件は、それがはっきり猟奇的なだけに人間の愚かさとは一線が引かれていて読後感がよかったくらいだ。
本書のハイライトといえるのは葛飾社長一家無理心中事件で、妻と娘が殺されるというだけでまったくひどい話だが、愚かしく見栄っ張りな男性が残した「自殺実況テープ」は愚かさここに極まれりとしか言いようがない。
ワタシが本書を読んでひどく暗い気持ちになるのは、経済的な困窮と愚行の密接さを年々実感するにつれ、自分も一歩間違えば、というのは大げさにしても、悪い流れが続いて三歩ぐらい間違えば本書に書かれるようなレベルの愚かさに達してしまうのではないかという恐怖を切実に感じるからだと思う。