yomoyomoの読書記録

2009年09月14日

高月靖『南極1号伝説―ダッチワイフの戦後史』(文春文庫) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 面白いという評をいくつか読んで興味は持っていたが、本の題材が題材だけにちょっと躊躇していたら早くも文庫落ちしたことを知り、これは良い機会と買ってみた。

 ワタシ自身はこの分野に疎くて、それこそギャグマンガに描かれる記号としての空気嫁的なイメージしか持ってなかったのだが、五年ほど前に正気ですかーッ 正気であればなんでもできる!(しょぼーん)というブログを知り、それに掲載されたラブドールの写真をみて驚いたものである。

 評判通りの面白い本だった。本書はダッチワイフ〜ラブドールを巡るノンフィクションなのだが、キワモノめいた題材に対して著者は正面から取り組んでいて、無理に読者の興味をひいたり笑わせようという作為がないところが好感が持てた。

 本書はまずダッチワイフからラブドールにいたる歴史を辿り、その後現在主流となっているシリコン製のラブドールについての肌理の細かい解説が来るが、真面目な分析が続くところに少し視点を変えたり引いたりするだけで途端に笑わずにはいられないところが本書の醍醐味か。

 そして後半はラブドールの開発者と所有者についてのドキュメントになるが、制作者側の探究心と陽性の情熱を感じて良かった。

 あと「究極のドーラー」と呼ばれるたぁ−坊の着せ替え資料室(リンク先閲覧注意)管理人のインタビューも苦労話が特に興味深かったが、今後ラブドールはそうしたマニア層よりも、本書にも触れられている高齢者、障害者向け市場の可能性があるように思った。将来、高齢者向け熟女ドールなんてものが開発されるのかも(もうあんのか?)。

 「文庫版あとがき」に、「こういうものを受け入れてはいけないのではないか、という不安が率直な感想だ」という外国人女性の声があるが、ワタシにもその女性の不安が分かる気がする。

 もちろん取り扱いには今も問題が多いことが本書には記されているが、本書にもいくつか掲載されているリアルな(白黒)写真を事前知識なしに目の当たりにして、これがロボット技術と結びつくことで(特に男性からみて)人間の異性が必要とされなくなる未来の予感を感じても不思議ではない。

 今でも「三次元より二次元」とか「二次元は裏切らない」などと冗談まじりに語られるが、ラブロボットが実現することで「お前まだ生身の女相手にしてんの?」、「二次元から三次元に戻ってきた(ただし相手はラブドール)」となる未来である。ロボットはこれまで労働の担い手として語られてきたが、こうなればそのロボット自身が少子化、並びに人口減少社会を推進してしまう。これは女性に与えるインパクトは草食系男子(笑)どころではない。もちろん映画『AI』に出てくるジゴロロボットのような女性相手のラブロボットが登場すれば、少なからぬ男性が切り捨てられるかもしれない。

 以上ワタシのとりとめも無い妄想であるが、そういえば少し前にそのあたりを扱った本があったなと記憶を辿ったら、『Love and Sex with Robots: The Evolution of Human-Robot Relationships』だった。Gizmodo Japanleft over junk に著者の David Levy のインタビューが載っているので興味ある方はそちらをお読みいただくとして、この本の邦訳は出ないのだろうか? あるいは『南極1号伝説』の英訳を David Levy に送るべきか。


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