2010年08月02日
Theodore Gray『Mad Science 炎と煙と轟音の科学実験54』(オライリー・ジャパン)
Make: Tokyo Meeting 05 の会場で、オライリーの田村さんからお土産にいただいた本である。
本書は本業である Mathematica 関係でも著名な Theodore Gray の Mad Science の邦訳である。
題名が題名だけにムチャした科学実験が出てくることを予想していたが、その期待に違わぬムチャぶりだった。一番最初に紹介される「危険すぎる製塩法」がもっとも分かりやすいが、食塩というありふれた物質が、水に触れると爆発するナトリウムと、かつて毒ガス兵器にも使われたこともある(もっとも敵と同じくらい味方も殺したらしい)塩素というあまりに不安定で危険な二つの元素の化学反応で生まれることを、ビジュアル的に痛快にみせてくれる。
どの実験にもそのテーマとなる「元素」を掲げているのが「元素図鑑」の作者らしいが、その元素へのフォーカスと実験の模様をシンプルに美しく捕えた写真の組み合わせが本書の肝だと思う。本書は見た目の派手さだけに偏っていない、科学の面白さを伝えようとする試みの一つである。
科学は、研究所や大学だけで行われるものではない。それは世界を見つめ、どこにでもある真実と美しさを知るための手段である。(4ページ)
題材になじみがある第1章「実験料理」、第2章「世界最後のDIY」が分かりやすい面白さがあるが、ある意味科学の本質に迫っている第6章「自然の驚異」がすごかった。個人的に最もインパクトがあった実験は、「高電圧でコインを半分の大きさにする」だった。そんなことできるのね。
本書の内容を鑑みれば分かることだが、著者のセオドア・グレイは「よい子は、おうちでこれをやってはいけません」式の警告を嫌悪している。その一方で、本書で解説される実験の危険性もちゃんと警告している。また著者は科学の威を借りる姿勢にも批判的で、それはチタン製であることを謳う南京錠やハサミをグラインダーにあてて、その反応の意味を解説しながらその有無を解説している実験によく出ている。この姿勢も極めて科学的で好ましいものだと思ったし、本書の読者にも受け継がれてほしいものである。
このところワシントンDCではエタノールが話題沸騰だ。石油に取ってかわり、しかも原材料になるトウモロコシを栽培する農家の票にもつながる。これは酒類に含まれるアルコールと基本的に同じもの(それにガソリンを加えて燃料にする)なのだが、酒と燃料どちらの形態でも、度が過ぎるとアルコールは人の判断力を失わせるようである。
(中略)
中西部には、多くのアルコール工場が建てられた。これで環境が保護されるのだろうか。たぶん違う。誰を信じるかにもよるが、エタノール1ガロン(3.9リットル)を作るために必要なトウモロコシを栽培して処理するには、1ガロン以上の石油が必要になる。いずれ植物セルロースに切り替われば効率は改善されるかもしれないが、最悪の場合、後に残されるのは大量のウィスキー工場かもしれない。(88ページ)