2007年03月22日
オライリー・ジャパン『Make: Technology on Your Time Volume 02』(オライリー・ジャパン)
通常自分が関わっている本を読書記録で取り上げることはしないのだが、全体としてみれば当方の貢献はとても小さいこと、そして本書がとても良い本なので例外とさせてもらう。
編集後記にもあるが、本書は元々2006年中に発売される予定で、実際当方もそれにあわせて仕事をしたので、当初の予定から遅れに遅れて刊行されると聞いてもあまり喜ぶ気持ちになれなかった。それは当方の文章にもあらわれているが、実物を読んでみて、これはそれだけの価値のある本だと分かり、苦みばしったことを書いたのをオライリーの編集者に対して詫びたい気持ちになった。
Make がソフトウェアに限らないハック雑誌であることはこれまで何度も書いているので省略する。日本版 Vol.2 の特集は「バックヤード・バイオロジー」……と聞いても何が何だか分からないが、要は「生物をハックする」ということだ。
まあ、この雑誌を読んだことのない人は、一番最初の MADEONEARTH を見ていただきたい。そこに登場するジェット駆動のウィングスーツ、スタートレックの宇宙船エンタープライズそっくりに改装された家、太陽エネルギーでコーヒーを炒るソーラーロースター、LED と GPS を使ってガレージの壁に作られる巨大な時計、15人乗りの自転車……特段高級、高価でない材料や技術を用いて作り上げられたハックの成果に興奮を覚えないだろうか? もし覚えるなら、本書を買って損はない。
特集「バックヤード・バイオロジー」もよいが、個人的には Segway の発明者であるディーン・ケイメン(Dean Kamen)のインタビューに一番感銘を受けた。彼がセグウェイだけでなく、四輪駆動車椅子 iBOT なども発明している偉大な発明者であることは山形浩生の文章を読んで知っていたが、彼のインタビュー自体読むのは初めてである。セグウェイ、並びにケイメンの「世界を救う」というビジョンに懐疑的だったインタビュアーが彼に惹きつけられていく記述は、ワタシ自身経験したことがある感覚で、それを思い出して懐かしく思ったりした。
彼は大きな目標を掲げ、失敗を恐れない一方で、その大きさゆえに取り組んでいる問題が自分に解決可能か分からず悩み、睡眠不足であることを正直に語る。
神に何かを頼めるとしたら、私は、問題の解決策を教えて欲しいとは言いません。それでは人生が退屈になってしまう。ただ、今、取り組んでいる問題が、既存の技術、道具、資源で解決可能だという確約だけはして欲しいですね。答えやヒントは要りません。ただ、問題だけが解けるという確証だけが欲しいんです。
インタビューの最後に一問一答が載っているが、人間として意味のあることを為したい、そしてそのために一刻も時間を無駄にしたくないという彼の意志に背筋が伸びた(彼の愛読書は『ファインマン物理学』シリーズだそうですよ、内田さん)。
日本版 Vol.1 を読んだときにも思ったことだが、特集ページだけ浮くようなところはなく、本を通して内容がわりと流線的に続く感じがする。熱いハックマインドが全体に筋を通しているということなのだろうが、そのあたり意識して編集されているのかもしれない。なお、本書は Vol.1 にはなかった日本版独自コンテンツもぼちぼち入っており、最近では Asterisk 方面の仕事を参考にさせてもらっている高橋隆雄さんのお名前を見かけて驚いたりした。