2010年05月17日
ダン・ショーベル『Me2.0 ネットであなたも仕事も変わる「自分ブランド術」』(日経BP社)
日経BPの高畠さんから献本いただいた。ワタシに縁のなさそうな本であるが、実はちょっとしたストーリーがある。
本書の冒頭に引用される賛辞に『マーケティングとPRの実践ネット戦略』のデビッド・マーマン・スコットが名前を連ねているが、彼の奥様である渡辺由佳里さんが原書の書評を書き、それを見たワタシが著者並びにこの本は面白そうだとブログに書き、それを見た坂東慶太さんが興味を持ち、出版社に働きかけたのが邦訳刊行の契機だったりする。詳しくは坂東さんのエントリを参照いただくとして、結果的にワタシもバトンの受け渡しに貢献したことになる。
個人的には『○○2.0』というネーミングにはうんざりだが、海外ではまだ『○○ 2.0』な非IT系の本が結構出ているようだ。本書はパーソナルブランディング(個人ブランディング)、自分ブランド術の本である。こうして横文字を使うとカッコつけてるようだが、要は「自分にまつわる事実や特徴を明らかにし、周囲に伝えること(20ページ)」であり、自分というブランドを外部に対して確固とした自分のイメージを認知させることである。
ブランディングとは他者の期待に合わせて自分を変えることではない。それはイメージ管理、つまりは意識的な操作だ。(26ページ)
それでは何のためにイメージを認知させるのか。それは目指すべきキャリアがあり、その達成のためである。本書には「自分のキャリアの指揮官になれ」と勇ましい文句があるが、逆にそうした自分が目指す成功のカタチが定まってないと難しいものがあるだろう。
そうした意味でワタシは本書の副題が不満である。確かに本書では個人ブランディングの強力なツールとしてのネット活用術が説かれている。しかし、ネットありきではなく飽くまで目指すべきキャリアこそが重要であり、それがあっての個人ブランディングなのだ(原書の副題を見てみよう)。
ソーシャルメディアはソーシャルネットワークと混同されることが多い。この二つの言葉はほぼ同じ意味で使われているが、ソーシャルネットワークはソーシャルメディアの一例であり、同好の士からなるオンラインコミュニティだ。それに対して、ソーシャルメディアはすべての人が同じテクノロジーと能力を利用できるようにする強力な「平準化装置(イコライザー)」である。(123ページ)
本書は Y 世代をターゲットにした本で、この世代分類も人によって定義が違うからアレなのだが、少なくとも本書の定義に従うならワタシは X 世代に属する。ワタシ自身を当てはめれば、ネットでの活動だけに限定しても個人ブランディングにははっきり失敗している。これにはワタシなりの事情(言い訳)があって、それについて書き出すと長くなるので割愛するが、本書は就職活動をしている大学生、社会人になって間もない若手社員は特に本書から学ぶところが多いだろう。
ただ一方で、その頃から自らが目指すべきキャリアを見据えてないといけないというのも、なーんも考えてなかった当時の自分を鑑み、厳しい時代だなとも思う。これは単にワタシがボンクラなだけかもしれないが、就職活動セミナーが完全に自己啓発系だという話も分かる気がする。
本書の著者は20代半ばにして個人ブランディングの第一人者になった人で、本書に書かれる意志力と行動力は賞賛に値する。本書で説かれるネット活用もプライバシーについての記述など手堅いし、意外に日米で落差は事前に予想したほど感じなかった。これから日本でも Facebook ユーザが増える流れになれば、その落差はさらに縮まるかもしれない。
ただ読んでてもやもやするところがあるのも確かで、例えば(この手の本の通例で)明るく前向きに起業の勧めを説かれると、「そういうお前は給与条件などから EMC という大企業を選んだろうが!」と言いたくなるし、本書にも著者自身の体験もいろいろ明かされているが、そうした大組織にいながら個人として情報発信すること、組織のソーシャルメディア規定などの兼ね合いについての記述がもう少し欲しかった。まぁ、著者がメディアに取り上げられ、有名となるやポンとそれ向けのポストを与えるところなど日本企業では難しい話だわな。
そういえば、原書は今年の秋に改訂版が出る予定だが、もし本書が売れたら、Gary Vaynerchuk のCrush It!(本書の著者が主催する Personal Brand Awards 受賞)や本書にも発言が引用されているクリス・ブローガンらによる Trust Agents あたりの邦訳が続くのではないかと予想しておく。