2009年07月06日
Joel Spolsky『More Joel on Software』(翔泳社)
翔泳社のクール編集者より献本いただいた。
名著として名高い『Joel on Software』の続編であり、本書に収録された文章はほぼすべて彼のブログで公開されており、少なからず邦訳もウェブで読むことができる。また一部は内容的に『ソフトウェア開発者採用ガイド』に重なる。ただそれでも書籍の形で持つに値する本であり、本作においてもジョエル先生のいささか冗長であるが楽しい語り口は健在である。
ギークの品質の定義が、スーツの品質の定義に勝ったのだ。Microsoft社内ではWindows Vistaの自動化スクリプトが今も走り続け、100%成功していることに違いないだろうと思うが、それもレビュアたちがみんな使える限りXPを使い続けるようにとアドバイスしている状況では意味ないことだ。XPからアップグレードする納得のいく理由をVistaがユーザに提供しているかをチェックする自動化テストは、どうやら誰も書かなかったらしい。(62ページ)
ただ「アーキテクチャ宇宙飛行士」など前作で出てくる言葉が注釈なしで使われているところがあるなど、前作を読んでいることが暗黙の前提になっているところがあるので、まずはそちらを読むことをお勧めする。もっとも本書を手に取る人は前作は読んでるか。
本書ではトヨタの「なぜなぜ5回」の実践が出てくるが、それを別としても、指揮系統マネジメントや入門経済学マネジメントに対する「家族のように感じられる結束したチームを作ることが必要とされる」一体化マネジメントの優位性が説かれているが、そうしたところが日本人受けする一端なのかもしれない。しかし、ここでジョエルが想定しているのは、本書や『ソフトウェア開発者採用ガイド』で紹介される厳しい基準をクリアした優れたエンジニアなのを忘れてはいけない。
ワタシは前作の読書記録の最後で、ジョエルは(というか Fog Creek Software は)ソフトウェアの主戦場が完全にウェブに移り、Web 2.0 全盛の現在(3年前の話だ)スタンスを変えていくのだろうかと書いている。Stack Overflow の成功を見る限り、コミュニティの上手い作り方なぞ Web 2.0 バブルに乗った若造なんぞよりワシのほうが遥かに長けとるわ! というジョエル先生に言われそうだ。
そうした意味で、第15章「ユーザビリティがすべてではない」と第16章「ソフトウェアで作るコミュニティ」が個人的には最も面白かった。
ソフトウェアの実装の細かい違いが、コミュニティの発展の仕方、振る舞い、感触に大きな違いをもたらす。(111ページ)