2014年05月25日
高野修平『始まりを告げる 《世界標準》 音楽マーケティング 戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法』(リットーミュージック)
本書のことは All Digital Music で知ったが、しばらくしてリットーミュージックの方から電子献本のオファーがあったので、ありがたく受け入れた。
献本された電子書籍(おそらくは Kindle 版と同等か)は、iOS でのみ読むことができるもので、ということはワタシの場合、iPhone 上で読むということになる。
iPhone 上で本を読むのは、津田大介『ウェブで政治を動かす!』などこれまで経験がないわけではなかったが、正直本一冊はきついものがあり、余分に時間がかかってしまったように思う。
ちょっと津田さんの名前を出したので思い出したが、かつてワタシが翻訳した『デジタル音楽の行方』について、津田さん(解説を書いてくださったのだよ)が「同じことを手を変え何度も説明している」と言ってたことがあり、そうかねと正直ピンとこなかったが、本書を読んで、その感想を思い出した。
本書はいかにして音楽を広めるために世の中を動かすかをテーマにした本で、本書の言葉を借りればいかにして自分ゴト化→仲間ゴト化→世の中ゴト化、共有→共感→共鳴のステップを踏ませるか、そのためにどのような戦略的な PR が可能か、それにどうソーシャルメディアを利用するのが効果的かの本である。
ワタシは『デジタル音楽の行方』を訳したときそれなりに達成感があったが、その当時(およそ10年前)ソーシャルメディアのここまでの隆盛は見えてなかっただろうし、さらに言えばワタシのような元から音楽ファンを自認する人間は、マーケティングや PR といったことは軽視しがちなところなのかもしれない。そうした意味で本書はワタシのような人間が見落としていたポイントを掴むのにありがたかった。
本書では「戦略PR」という言葉を使っているが、PR(パブリック・リレーションズ)というものは元から戦略的であるはずで、わざわざ「戦略PR」と言うこと自体おかしいはずである。逆に言うと、わざわざ「戦略PR」と言わなければならないくらい日本の音楽業界における PR が戦略的でなかったことの裏返しなのだ。本書の第二章における本田哲也(ブルーカレント・ジャパン代表取締役)と著者との対談における、日本で「PRがもっと必要だ」「PR担当を雇おう」と言ってるときの PR は(パブリック・リレーションズでなく)ほとんどパブリシティのことだ。PR、プロモーション、パブリシティの3つの違いを言える人がいない、という本田氏の指摘にははっとした。
本書では音楽に限らずいろんな「世の中ゴト化」「ムーブメント」の事例が紹介されていて、その多くは2014年の今読むのに適したものだと思う。第5章は特に事例集で、最初デヴィッド・ボウイや JAY-Z やアーケイド・ファイアなど既にビッグな人たちの事例が続いて、もっと身近な事例でないと応用できないのでは……と不安に思っていたら、ちゃんと日本の(もっと身近なスケールの)事例が続いたのはよかったと思う。