yomoyomoの読書記録

2009年03月16日

デビッド・マーマン・スコット『マーケティングとPRの実践ネット戦略』(日経BP社) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 訳者の平田大治さんから献本いただいた。

 少し前にその平田さんと同じ宴席を囲む機会があったので本書について少しお話を伺ったのだが、平田さん、並びに本書の監修者であり「はじめに」を寄せている神原弥奈子氏のニューズ・ツー・ユーがやってることとの深い親和性に驚いたことが本書が刊行されるきっかけだったようで、そのような理解者を得た本書は幸福である。

 この業界は時の流れるのが早く、本書に序文を寄せているロバート・スコーブルの肩書きは二つ前のものだったりする。そうした意味で、2007年に刊行された原書のタイトルに含まれる "The New Rules" というフレーズが通用しなくなっていてもおかしくない。実際訳者が認める通り、セカンドライフへの評価などアテが外れたところもあるが、少なくとも日本では本書の内容は通用するものだと思う。

 もう一つ面白い話がある。同じく5年の間に、ブログに直接コメントをくれたり、ブログや雑誌の記事を見て私に連絡してきたPR担当者は片手の指で数えられるほどしかいなかった。自分から売り込もうとするくせに、相手が書いているブログは読まないのだろうか。(28ページ)

 個人的には、従来同じように使われてきた「プレスリリース」と「ニュースリリース」の違い、具体的には消費者直結型ニュースリリースの話が特にためになった。一方で、ワタシも読んでいる世界的に最も影響力のある PR ブロガーであるスティーヴ・ルーベルは、原書の PDF 版を読んで、Direct-to-Consumer Press Releases Suck(消費者に直接読まれるプレスリリースなんてクソだ)と本書の主張に異を唱えている。このあたりについても平田さんに質問させてもらったが、既に当方にアルコールが入っており、また平田さんの答えが高級だったためか正直よく分からなかった。おそらく立場の違いもあるのだろうが、興味深いところである。

 本書は、先に名前を挙げたロバート・スコーブルの『ブログスフィア』と同じく、「市場とは対話である」という Cluetrain Manifesto の系譜に連なるものである。『ブログスフィア』にもマーケティングや PR に関する話はあったと思うし、ビジネスへのブログなどのいわゆる Web 2.0 ツールの活用を謳うことに新規性はもはやない。ただ本書の内容は当然ながらより実践的で、お題目から一歩踏み込むものになっている。正直内容を詰め込みすぎの感もあるが、それについては一番最後の章で著者からフォローがなされている。

 第10章の「顧客のペルソナ」、第11章の「ソートリーダーシップ」の話が顕著だが、今やマーケティングと PR は、顧客や記者との関係作りから始めなければならず、また顧客のペルソナをクリアにしていく過程で当然のようなマーケティングプログラムは変化するという認識はもっと広まるとよいと思う。


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