yomoyomoの読書記録

2005年05月02日

小川洋子『妊娠カレンダー』(文春文庫) このエントリーを含むブックマーク

小川洋子『妊娠カレンダー』

 著者の作品では、『博士の愛した数式』が昨年ベストセラーになったが、その前に本書を買ったまま長らく積読状態だったので先にこちらを読む。

 本書の表題作である「妊娠カレンダー」が芥川賞を受賞したわけだが、特に姉の口調にいささか古さを感じる。これぐらいが芥川賞をとるにはちょうどよいのだろうか……というのはイジワルな見方か。

 さて、文春文庫の裏表紙には表題作について、「出産を控えた姉に毒薬の染まったジャムを食べさせる妹」と書いていて、これを読むと何かおどろおどろしい復讐譚か何かのようだが、そんな単純な小説ではない。

 この小説に語り手である妹の妊娠した姉に対する直線的な悪意を読み取るのは間違いだろう。(いささか皮肉を交えながらも)姉の変化を受け入れ世話を焼くのと、アメリカ産のグレープフルーツでジャムを作って食べさせる行為は、妹の中で矛盾していない。彼女の行動に主体性は感じられず、ただ状況に流されているような書き方ではあるが、自然と加害者側に立てるところは著者の資質なのかもしれない。だからこそ最後の一文が怖さを湛えて浮かび上がるのである。

 残る二篇「ドミトリイ」、「夕暮れの給食室と雨のプール」とも奇妙な登場人物が配してあったり、幻想的であったりするが、いずれも静謐な筆致に、平凡な材料を平凡に見せない著者の観察眼を感じることができる。

 三つの中でワタシが一番好きなのは、「ドミトリイ」かな。欠点もあるんだけどね。冒頭の音の話がうまくつながっていないんじゃないとか。


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