2008年09月22日
東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』(講談社文庫)
東野圭吾は以前から読みたいと思いながら一冊も読んだことがなかったのだが、友人が最近彼の小説にはまっていて、その中から「これはあまり面白くなかったから」ということでワタシにくれたものである。
おいおいと思いながら読み始めたが、ワタシ的には面白かった。久しぶりに読み応えのあるエンターテイメント小説を堪能させてもらった。
本書は冒頭で日常的な生活風景からちょっとした「パラレルワールド」を提示し、そして二つのストーリーが平行する形になる。
ただすぐにその片方の不確かさが浮かび上がり、両方のストーリーがはっきり交錯する第七章あたりで、読者の興味はそれがどのような形で破綻し、どのような真相にたどり着くかに収斂する。
友人が本書を読んであまり楽しめなかったのは、恋愛と友情の相克というテーマに縁がなかったかもしれないし、ワタシなど容易に本書の主人公に感情移入して読めたが、女性が同様に感情移入できるかとなると確かにどうだろうね。
前述の通り、本書は恋愛と友情の相克という古典的なテーマを描いた小説だが、主人公たちの研究、特に記憶の操作に関する研究が密接に関わっており、そのあたりの手際もうまかったと思う。MD って音楽でなくコンピュータの外部記憶装置として使われたことあったっけ? とか細部に少しひっかかるところはあったけど。
本書の結末は必然ともいえる苦いもので、語り手の親友が最後に託す手紙で、その直前に感じた違和感も払拭される形になっている。苦くも心地よい読後感を感じることができた……のだが、その後、あのような終わり方をしたのだから、その後の主人公とヒロインとの設定は、いくら目的があったとはいえおかしいじゃないかと思い直した。「彼女だって辛かったはずなんだ」で済まされる話じゃないだろう。その点が本書の欠点ではないか。