yomoyomoの読書記録

2008年08月25日

レッグス・マクニール&ジリアン・マッケイン『プリーズ・キル・ミー』(メディア総合研究所) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 メディア総合研究所の大久保さんより献本いただいた。ワタシも長らくウェブに雑文を書いてきたが、ロックに関する書籍の献本を受けたのは初めてで感激した。

 本書はニューヨーク・パンクの起源から終焉(と言ってよいかは分からないが)までを当事者たちの証言のみで構成した本である。パンクと聞くとセックス・ピストルズに代表されるロンドン・パンクの視覚的イメージが強いが、本書はヴェルヴェット・アンダーグラウンドとアンディー・ウォーホルのファクトリー周辺から始まり(これが何より嬉しかったし、この開始点が本書の成功につながっている)、ドアーズ、MC5、ストゥージズ、ニューヨーク・ドールズ、パティ・スミス、テレヴィジョン、ラモーンズ……と辿っていく。よくぞ時代も立場もバラバラなインタビュー素材をよくぞここまでまとめ、ストーリーを紡ぎだしたものだと感心した。

 しかし、長かったな(笑)。何せ全44章560ページだもん。登場する当事者たちに一通り予備知識があるくらいの人が読むのによいだろう(巻末には人物解説がちゃんとあるけど)。逆に言えば、そういう人には本書のボリュームはこたえられないものがある。

 以前ワタシが愛する洋楽アルバム100選を選んだときに、本書でフィーチャーされているバンドのアルバムを何枚も入れているが、70年代以降のニューヨークシーンについてそこまで精通してなくて、例えばニューヨーク・ドールズのように食わず嫌いだった人たちもいるのだが、本書の往時の証言を読むと、少年期のモリッシーが彼らを熱烈に愛した理由もおぼろげながら見えてくる。

 ワタシのような人間には、ヴェルヴェッツのライブ盤もあるマクシズ・カンサス・シティの位置づけ、パンクという言葉が音楽ジャンルになる前からあった「パンク・マガジン」の話、文化的中心地としてマクシズにとってかわる CBGB といった以前から疑問だったことが分かってよかった。

 また本書を読むと、人のつながりもよく分かって面白い。例えば、ジョン・ケイルがストゥージズやパティ・スミスのプロデュースをやったことは当然知ってるが、最初のほうに登場する証言者が後になってまた意外な形で登場して驚いたりした。マルコム・マクラーレンとニューヨーク・シーンのつながりとか、何かとしゃしゃりでるベベ・ビュエルとか。あとダニー・フィールズやサイアーレコードを設立するスタイン夫妻とか。

 それにしても当事者の当時のせせこましい恨みなどもしっかり垣間見せながら率直に語る話は面白い。例によってセックス&ドラッグの話もてんこもりだし、ルー・リードのえげつない話やパティ・スミスの人間的にイヤな話も出てくるが、ワタシはそんなものだろうと思っていたので不快にはならなかった。

 本書は最後になってシド・ヴィシャス、レスター・バングス、ジョニー・サンダース、そしてニコといった死者についての証言に占められて終わる。ありがちな展開とも言えるし、例えばソニック・ユースなどに話をつなげることもできたかと思うが、それだと本書はまたページが増えて終わりが見えなくなるのだから仕方がないか。ただ「ヒッピーはニクソンが出てきても生き残れたのに、パンクはロナルド・レーガンに屈服したんだ」というミック・ファレンの言葉は苦い。

 かように労作である本書だが、上記の通りバラバラなインタビューがしっかり訳されていて感心した。この手の音楽本の訳書だと「はぁ?」と言いたくなる箇所が必ずあるのだが、本書にはそれがなかった。訳者の方が証言者が何者かちゃんと分かって訳したのだろう。

 それにしてもなぁ、200ページに「典型的な夜の風景」と解説される写真に写っているのがデヴィッド・ヨハンセン、レニー・ケイ、ディー・ディー・ラモーン、パティ・スミス、ジェイ・ディー・ドハーディ、トム・ヴァーレイン、そしてジョン・ケイルという見ているだけでクラクラくるような面子なんだな!

 しかし、それはもう永遠に取り戻せないものなのである。


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