yomoyomoの読書記録

2006年01月06日

Jack D. Herrington『Podcasting Hacks―構成、録音、発信の必須テクニック』(オライリー・ジャパン) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 オライリー・ジャパンの編集者より献本いただいた本である。最初に少し寄り道して、『デジタル音楽の行方』から引用する。

ポッドキャスティングは二〇〇四年半ばに始まったが、あなたが本書を読むまでに山火事のように広がっているだろう。(中略)ポッドキャスティングは二一世紀の海賊ラジオであり、ブログが出版にもたらしたのと同じくらい甚大な影響を従来のラジオにもたらすだろう。(94-95ページ)

 アメリカにおけるラジオの地位、そして『デジタル音楽の行方』が主に2004年中に書かれたことを考えると相当な評価と言えるが、翻訳が刊行された日本でも「山火事のように広がっている」……と書くのは言いすぎだろうが、それが見込まれる現状を鑑みると、慧眼と言ってよいだろう。いまやポッドキャスティングが政府に検閲される(?)時代である。

 本書にも登場する Odeo を手がける Evan Williams は「ポッドキャスティングを普通の人達に」と訴える。今後ポッドキャストの大衆化、カジュアル化が進むのは間違いない。しかし、何度か書いたことがあるがワタシはそのあたりに危惧を感じる。まえがきで Dan Gillmor がいみじくも書いている。

 ただし、警告しておきたいことが1つあります。それは、オーディオファイルが簡単に作成できるようになったからといって、誰もがそうすべきであると言えないことです。私は、大勢の人々が聴きたいと思うオーディオ番組を制作することは、それに匹敵するブログエントリを書くことよりも、はるかに難しいと考えています。(viiiページ)

 これを考えないポッドキャストが濫造され悪いイメージが定着するのを危惧するわけだが、本書は簡単にポッドキャストを作る助けとなるだけでなく、質の高いポッドキャストを作る助けになる良書である。本書の表現を借りるならドライブウェイポテンシャル(車を駐車した後も、リスナーがラジオに聴き入るほどの効果)を持つポッドキャストといったところだろうか。また本書は、周辺ソフトウェアやサービスを提供する人たちにも非常に有用な書籍だと思う。

 本書が扱う内容は多岐にわたる。ポッドキャストの入手、作成(のための技術)、登録(含ホスティング)に関するサービスを網羅しており、プラットホームもできるだけ限定していないというのが分かるし(PSPでのポッドキャスティング視聴も対象!)、技術的な話に留まらない法的問題やプライバシーなど付随して起こる問題についての対処の話、そして有用な心構えの話もちゃんとあるし、マイクやアンプなどの機器についての情報も詳しい。

 しかしなぁ、法律関係は当然アメリカを対象にしたものだし、機器類についての情報もどこまで日本で通用するかワタシには判別できないんだよなぁ。本書に関しては翻訳書につきものの日米の差異を無視できないうらみは確実にある。

 ただその「日米の差異」にはもちろん良い側面もある。本書を読んで思うのは、アメリカのラジオ文化、情報公開文化の層の厚さである。その蓄積がよく分かる。政治やインタビューなどの堅めの内容についてのポッドキャスティングをやりたい場合にそれがよく分かるだろう。

 本書は Hack シリーズでおなじみの短めのハックの積み重ねで構成されており、実際のコードは少ないものの感じとしてどちらかというと堅めの内容が前半に多いように思う。それだけ立ち読みして決め付けないように。なんせビールキャストなんていう言葉もでてくるんだから。それに大は小を兼ねるというか、しっかりした内容の番組の作り方の心得は、もっとシンプル、カジュアルな番組を作るときも役に立つだろう。

 これもワタシは何度か書いているが、ワタシがポッドキャスティングに期待するのは音楽系のコンテンツである。前述の法的問題はあるわけだが、ワタシも大好きな Coverville の作者 Brian Ibbott の執筆部分は使っているソフトウェアの話など興味深かった。

 こうして音楽系ポッドキャスティングについての記述を読んで思うのは、アメリカにおける GarageBandGarageBand.jp という非公式サイトがあるんだね)のステータスであり、その方面からのクリエイティブ・コモンズの普及に対する期待である。本書では Creative Commons について何度も言及されるが、やはりこれは音声や映像から広がるべきだよ。そうした意味でマッシュアップについての情報も載っているのは嬉しかった。

 こういう本を読むと、mF247 のようなサービスも早くポッドキャスティングに参入すべきだと分かる。例えば新規登録曲の中から選んでとか、毎週特定ジャンルを切り口にとかいろいろ浮かぶじゃないか。それこそ「目利き」の出番だし、楽曲だけでなくサービス自身の宣伝になる。通常よりも楽曲利用の小回りが利くはずなのだから、それを利用しない手はない。

 本書に関しては、オライリー・ジャパンのページからいくつかサンプルがダウンロードできる。


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