2011年08月29日
内田麻理香『理系なお姉さんは苦手ですか?―理系な女性10人の理系人生カタログ―』(技術評論社)
著者から献本いただいた。
本書は gihyo.jp の連載「理系なおねえさんはアリですか?」の書籍化で、この連載は大体読んでいたのでさらっと読めるかと思ったが、まとめられたのを落ち着いて読むと理系な女性の方々の生き方が多様で読み応えがあった。
ワタシ自身理系に属する人間だが、自分はどうやって選択したか思い出すと、ワタシが通っていた田舎の進学校は高校二年生から文理が分かれたが、大雑把にいって成績の良い人間は理系に行くのが自然だという空気があった。当時はワタシもその範疇に属していたし、どちらかというと理系教科のほうが得意だったはずだ(というか国語がダメだった)。
しかし女性となるとその空気は反転していたように思う。本書にも巻末にデータが示されるが、未だ理系に進む女性は少ないし、工学系となるとその傾向は顕著だ。上で自分の高校時代を書いたが、当時好きだった女性が同じく理系にいくか文系にいくか悩んでいて、当時のワタシはできれば近い立場にいたいので理系を強く勧めたが、理系に進み二年生になった彼女のクラスは極端に女子が少なくて、自分のエゴがもたらしたものに後ろめたさを感じたのを思い出す(しかし、彼女は後に別の理系の同級生と結婚しているので、結果オーライだったと考えることにしている)。
本書に紹介される10人の理系人生を歩む女性たちは皆、仕事において確固とした自己を確立している方々ばかりで、進路を悩む女子中高生(著者は「はじめに」で本書の想定読者をいろいろ書いているが、売り上げ的な話はともかくこの層(あるいはその親御さん)に届かないと意味がないだろう)が学べるところが多い人たちである。しかも、上にも書いたようにその生き方は多様で、一人として似た人生はない。それでも大枠で共通するところがあるはずだ。面白いことに、自分はこの道に進む! と学生の頃から心に誓い、その道を突き進んだ人はほとんどおらず、進学や就職の選択もなんとなくだったり、その選択後も壁につきあたったり方向転換した人が多いということだ。
ここでワタシが思い出したのはポール・グレアムの「知っておきたかったこと」で、この文章に書かれる、高校生のうちに自分が人生で何を為すかなんて考えなくてよい、将来を決めるのでなく良さそうな選択肢がより増える「風上」に立つようにする(進路選択において、理系に進むということがつまりは風上に立つということだ)、好奇心があれば努力は遊びになるといったアドバイスは、本書に収録されたインタビューの有効な補助線になるのではないか。それに加えるなら、必要なのは思い切りのよさというか、重要な決定を重々しく語らないさっぱりとした決断力が本書のインタビューイの方々に共通するように思った。この決断力がひどく欠けているワタシはそれを大変魅力的に感じたことを付け加えておく。
本書でちょっと気になったのは、インタビューにおいて理系な女性たちの恋愛や結婚の話題にインタビューではほとんど触れてないこと。本書は『恋する理系女子科学者』ではないのだから別に良いのだけど、やはりこれは意識的なものなのだろうなぁ。
あと関係ないが、岡野麻衣子さん(日本科学未来館)のエピローグにある、「私は全然わからないのですが」と前置きして聞いてくるお客様は絶対その分野の専門家である、の法則にふいてしまった。