yomoyomoの読書記録

2013年05月20日

円堂都司昭『ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ』(青土社) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 何度も書いているが、ワタシは著者の(遠藤利明名義の)文章を90年代はじめから読ませてもらっている。つまり彼の長年の読者にしてファンなのだが、それを抜きにしてもこれはお勧めできる本である。

 書名だけ見て、ソーシャルがどうしたというのを音楽に当てはめただけの本なのかと軽く見る人ももしかしたらいるかもしれないが、2010年代における音楽の変容(トランスフォーム)と揺らぎを「音楽遊び」という言葉で読み解いていく第1章「ガジェット化する音楽」に始まり、この書名の必然性が見えてくる。

 ワタシは著者よりも10歳年少だが、メンタリティーは完全に古いロックファンのそれで、例えば Music Unlimited で何か聴くにしても、基本的にはアルバム単位で聴いてしまう人間だったりする。そうした意味で、本書は今現在の「音楽」の捉え方自体を楽しく教えてくれるありがたい本だった。

 何より感心したのは、2013年に(主に日本の)音楽シーンについて語るべき話題をほぼすべて網羅していることである。その網羅性に、何か抜けてるトピックはないかと逆に意地悪に考えてしまったくらいで、一つ思いついたのは磯部涼『踊ってはいけない国、日本』などで問題にされているクラブシーンの風営法による規制問題か……と思ったらその方面については、本書と同時期に刊行された『ディズニーの隣の風景: オンステージ化する日本』で取り上げられていることを著者に教えていただいた

 そうした意味で満足度の高い本だし、いろんなトピックを連想、接続していく著者のスタイルを堪能できる本でもある。しかも、単に「○○と言えば、××があったのも同じ〜年で」とつなぐだけに終わらず、接続したもの同士の差異もちゃんと考察されていることが多く、あとがきで著者は本書を『YMOコンプレックス』の十年後の続編と位置づけているが、本書は『YMOコンプレックス』よりも一段論に粘り腰が入っている感じがした。

 本書の本論からは離れるが、個人的には、近年何かと批判的対象とされる「「ロキノン」というマジックワード」というについて、雑誌 rockin' on の長年の執筆者である著者がその曖昧性を論じているところにニヤリとしてしまった(円堂さん、249ページに一カ所「ROCIN' ON」になってるところがありますよ)。

 「ロキノン」批判の発言があっても、批判者自身が同社出身の編集者や書き手であり、他からは根っこを同じくしているようにみえるケースもある。特定の会社や媒体だけでなく、同社出身ライターがあちこちで普通に執筆しているような、ロックをめぐる言説空間全体を嫌悪しているケースもあるだろう。これら、ロッキング・オンをめぐる様々な状況を腑分けしたうえで詳細に批判した例は、今のところ見当たらない。他の事象に関しては細かく腑分けして批評するタイプの論者でも、「ロキノン」に関してだけは断片的で曖昧な批判を吐いてすませている。それでよいとするような漠然とした空気が、特にネット空間にはある。

 著者はあとがきの最後で、評論家として冷静に論をまとめようとするとどうしてもロックに距離を置いてしまうが、一度くらい愛に溺れた本を書いてみたいと漏らしているが、新刊がガンガン売れて、ロバート・フリップとキング・クリムゾンについて愛まみれの本を書く余裕ができることを読者として密かに願っている。


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