yomoyomoの読書記録

2015年01月18日

アリアナ・ハフィントン『サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功』(CCCメディアハウス) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 原書や邦訳をブログで紹介した関係で、前作『誰が中流を殺すのか アメリカが第三世界に堕ちる日』に続いて、江坂健さんに献本いただいた。

 前作はアメリカにおける中間層の没落に対する危機感が全面に出ていたが、本作はうってかわって個人の成功を本のテーマにした本である。個人的な好みとしては前作のほうが好きだが、実は日本の読者にとって受ける内容なのは本作のほうかもしれない。

 本書のターゲットは女性に限られないのだが、やはり著者が成功者の女性ということでそうした期待はあるだろう。原書刊行時、この本とシェリル・サンドバーグの『LEAN IN』を対立させるような論調の記事を見かけたが、本書にもシェリル・サンドバーグの名前は何度も登場するし、両者の主張は必ずしも対立するものではない。それより女性のライフスタイル的にはエミリー・マッチャー『ハウスワイフ2.0』、アメリカ人のライフスタイル的には佐久間裕美子『ヒップな生活革命』あたりとのつながりで読むとよいのかもしれないが、実はワタシは両方とも未読だったりする。

 本書はお金と権力だけにとらわれない3番目の基準(サード・メトリック)として、幸福(ウェル・ビーイング)、知恵(ウィズダム)、不思議と驚き(ワンダー)、そして与えること(ギビング)を4つの柱にすることを提唱している。が、ワタシにとっての読みどころはウェル・ビーイングに集中しているように思った。

 時間欠乏症、また消耗し燃えつきるまで働くタイムマッチョな男性中心に企業文化の弊害と「最も過小評価されている健康習慣」である睡眠の重要性の訴えは、間違いなく日本の読者にも響くところが多いはずだ。現代人にとってのストレスの考察、またアメリカの女性を縛る「すべてを手に入れる」ことをよしとする成功へのハードルの高さに対する異議と成功の再定義の訴えも同様だろう。

 ただ睡眠の重要性についてはよく分かるのだが、著者が創始者であるハフィントン・ポストでも昼寝部屋が活用されている話を書いていて、一方最近睡眠について専門家が語る昼寝について否定的な記事を読んでしまって頭を抱えたのだが(これが本当なら、シエスタなんて最悪の習慣ということにならないか?)、このあたりどうなんだろう。

 あと本書のウェル・ビーイングに関するところで面白いと思ったのは瞑想の活用を推しているところで、以前からシリコンバレーなどで瞑想が職場で取り入れられているという話は聞いていたが、もっとこのあたりについて読みたかったくらいである。

 本書にも「瞑想なんてヒッピー風のニューエイジ的な現実逃避にすぎない、という見方は消えつつある」という記述があるが、本書は結構ニューエイジ的価値観が見え隠れするし、(後半ワンダーの章が特に)スピリチュアル方面との親和性が高い。著者の妹のアガピを「スピリチュアルなことにかけては天性の才能がある。アガピは私の人生のガイドだ」と賞賛したり、「スピリチュアルな再生体験をしなければ、ネガティブな出来事だけが自分の基盤になりかねない」と書くほどだが、これは日本の読者にはどう映るのだろうか。そうした意味で、速水健朗さんなど本書を読んでどういう感想を述べるかな、と思ったりした。


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