yomoyomoの読書記録

2011年06月06日

町山智浩『映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで』(洋泉社) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 町山智浩さんのブログはずっと前から愛読しており、ポッドキャストなども欠かさず聞いているのに、町山さんの主著といえる本書を今まで読んでなかった。刊行当時に何故買わなかったのか今では思い出せないが、もしかすると本書にも引き合いに出される「映画の見方なんて人それぞれだろう」という相対論があったのかもしれない。

 ずっと Amazon でも新品が品切れ状態だったのが、増刷されたと聞いてこれが良い機会だろうと買ってみたのだが、早く読んでおけばよかったと素直に思える本だった。『時計じかけのオレンジ』についての文章など、今読むとまた違った感慨をおこさせるものもある。

 本書は60年代後半からおよそ10年間に作られた、単なる「見世物」でなく脚本家や監督たちの「作品」となったアメリカンニューシネマ期の映画を主に取り上げている。本書でページを割かれる作品は『フレンチ・コネクション』以外すべて観ており、『時計じかけのオレンジ』をはじめとして思いいれのある映画が多い。

 本書はそれらの映画を脚本家、監督の意図を読み解きながら正面から論じるもので、ワタシ自身の解釈もそうずれたものではないことが分かった……と書こうと思ったが、本書を再読するうち、いやいや、当時は正直分かんなかったものの、ワタシが追体験した時点で本書で語られる映画は既に「名作」扱いだったから、なんとなく分かった気になっていたのもあったね、と気付かされたことは正直に認めないといけない(正直『イージー・ライダー』っていい映画とは思えなかったし)。

 例えば『地獄の黙示録』については、メイキングである『ハート・オブ・ダークネス』も観ていて制作の裏事情も一通り知っていたが、本書はただのゴシップの披露にとどまらず、そうした事情によりフィッシャーキング(漁夫王)を媒介としてフレイザーの『金枝篇』やT・S・エリオットの詩が導入され、マーロン・ブランドやデニス・ホッパーの台詞にどのように織り込まれていったのかを解き明かすところがよく書かれている。あと『地獄の黙示録』をモンド映画として『さらばアフリカ』と比較しているのも面白かった。

 70年代を席巻したアメリカンニューシネマを著者はアメリカ映画界の思春期における通過儀礼になぞらえ、『ロッキー』あたりを境に神話への退行が始まった(そして80年代ハリウッド映画は巨大企業が仕切るただのビジネスになった)と見ているが、その『ロッキー』と『タクシー・ドライバー』という第49回アカデミー賞の作品賞を争った二作が、同じ話の表裏であるという指摘もはっとした(スコセッシが中国の大学で映画の講義をしたときに一人の生徒からされた相談とその後日談の話はいかにも彼らしいが、これの出典は何なのだろう)。

 あと『未知との遭遇』を中心にスティーブン・スピルバーグを語る最終章は、『A.I.』におけるキューブリックとのかかわりもあって本書の見事な締めになっていて力強い語りがずんずん進むが、『A.I.』が全然好きになれなかった、というか「これってバカ映画?」とすら思ったワタシ的には少し違和感が残った。


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