2011年02月17日
小林恭子、白井聡、塚越健司、津田大介、八田真行、浜野喬士、孫崎享『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)
洋泉社の雨宮さんから献本いただいた。
これは以前も書いたことであるが、Wikileaks についてはその立ち上げ時にニュースになったのを読んだとき、これは胡散臭い存在だと切り捨て、以後まったく注意を払ってなかった。だから WCJ2009 で八田真行氏が「Wikileaksの現状と課題、そして突きつける問題」という題で講演をやると知ったときも、ヘンなものに入れ込んでと訝しく思ったものだ。大して期待せずに聴講してひっくり返るぐらい衝撃を受け、それからは注意して Wikileaks に関するニュースを追うようになったが、じきにワタシが注意しなくても彼らに関するニュースが一般レベルで大きな話題になったのはご存知の通りである。
講演を聞いた当時、さすがにそれは割り切りが良すぎでは、とワタシが及び腰だった部分を含め、八田真行の見立ては正しかったわけだ。ワタシの観測範囲では本書における彼の文章の評判が良いようで、ワタシも「Wikipediaがプラットフォームになるのを妨げているもの」で取り上げているが、内容的には別物だがあの WCJ2009 の講演と同種の衝撃を感じさせる内容なので、その評判は不思議ではない。「ゆえに、内部告発者はウィキリークスを信用できないし、そもそも信用すべきではない(121ページ)」とは何ともブラックだが、その後解説される Tor についても陰謀説が出ておりこの話題はムズカシい。
本書は第一章で塚越健司氏が Wikileaks の活動史の概要を示し、続いてとっつきやすいジャーナリズム方面の話、そして後半につれて話が難しくなるという構成をとっている。複数の章で同じ話題が繰り返され、一冊の本として読むとその書名とともにイラッとするところもあるが、Wikileaks について正確、公正にその全体像を示すという本書の趣旨を考えれば、得られるもののほうがずっと多い。
個人的には Wikileaks 自体の活動は、アサンジへの権力集中の弊害とメンバーの離反などあり、今後少なくとも当分は低迷すると見ているのだが、それでもその離反者らによる Openleaks をはじめとする同種の動きはいくつも出てくるだろう。特に注目すべきはアサンジが語る「科学的ジャーナリズム」で、これはティム・バーナーズ=リーがデータジャーナリズムこそがジャーナリズムの未来と語るのと符合する。リークサイトと既存大手ジャーナリズムとどのように緊張を孕みながらも連携できるのか気になるところだ。
本書には「メディアにおける9.11事件」という表現も取り上げられるが、9.11がそうであったように、ジャーナリズムの分野に限らず「Wikileaks 以前/以後」と分けざるをえないくらい、それこそ国家主権の脅威にすらなりうる破壊的な存在であり、もはや時計を巻き戻すことはできない。
こうした状況を前に、私たちにできることはなんだろうか。それは、「理解すること」である。やみくもに恐れたり、表面的な理解にとどまるのではない。仕組みをきちんと理解し、そのメリットと共に、それがはらむ危険性にも思いを巡らせること。(142ページ)
本書はその出発点としての仕事を果たしている。その段階にない、という人は Wikileaks の活動により近い立場から書かれた訳書を読むのがよいだろう。