2011年03月31日
菅原出『ウィキリークスの衝撃 世界を揺るがす機密漏洩の正体』(日経BP社)
日経BP社の竹内さんから献本いただいた。
Wikileaks 本となると、ワタシの場合、この前に読んだ『日本人が知らないウィキリークス』とどうしても比較してしまうが、本書は Wikileaks そのものを掘り下げるというより、ウィキリークスが明らかにしたアメリカの国家機密から、中東情勢を中心とした紛争、戦争の現状を解き明かすことに主眼を置く本である。本書は、日経ビジネスオンラインの連載を元にするもので、その連載もある程度読んでいたはずだが、前述の通り『日本人が知らないウィキリークス』とは棲み分けのできている本なので違ったマインドセットで読めたし、内容的にも有益だった。
ジュリアン・アサンジ、並びにウィキリークスの変遷と試行錯誤についての話など必要な解説は本書でもちゃんとなされており、またウィキリークスに膨大なリークをしたとされるブラッドリー・マニングについてちゃんとページを割いて解説しているのも好感をもった。
マニングのような二十歳そこそこの上等兵が何でそんな大量の情報を持ち出せたのかというのがずっと不思議だったのだが、9.11のトラウマが生んだ機密共有ネットワークがそれを可能にしたという話は知らなかった。しかし、そこに USB メモリの持ち込みは禁じていたが、CD は焼けたのが漏洩源だったというのは何というか……これが現実なんだろうな。
本書のメインパートといえるのが、マニングを経てウィキリークスによって暴露された公電をもとに国際情勢を読み解く6章以降である。しかし、北朝鮮とアルカイダ、イランとタリバンの武器取引の話を知ると、イラクとアルカイダのつながりをでっち上げてまでイラクと戦争を無理やり始めたブッシュ政権は何だったんだと改めて呆れるし、そしてそのイラク戦争という「選択の戦争」が残したあまりに大きな傷、そしてそのイラク戦争に反対しながらアフガニスタン戦争の正当性を主張続ける「オバマの戦争」の迷走ぶりには頭を抱えたくなった。しかし、アフガニスタンのカルザイ政権の腐敗の温床に手をつけるため、米捜査当局が慎重にことを進めて汚職容疑逮捕したサレヒ国家安全保障会議議長が長年にわたる CIA の協力者だったことが明かされてどっちらけという話など、この手の話のズブズブ感をよくあらわしている。
そして最後の第10章「"無極化世界"が生んだ「時代の申し子」」で再びウィキリークスにフォーカスが戻る。ウィキリークスは「国際的なイベントに影響力を持とうと、国際情勢の進展に合わせて秘密公電を公開しようとしている(173ページ)」と書くが、ウィキリークスを過大評価はしていないが、ウィキリークスが(多極化というより)無極化する世界において、もはや国家がコントロールできない国際政治上のプレイヤーになったと締めくくる。
前にも書いたが、ウィキリークス自体は権力が集中しすぎたアサンジが自由に動きが取れない状態となっており停滞があると思うが、リークを武器に透明性を求める勢力が、国際政治上のプレイヤーになる以前に戻ることはないのは間違いないようだ。