2007年03月26日
湯川鶴章『ウェブを進化させる人たち』(翔泳社)
本書は『ネットは新聞を殺すのか』や『ブログがジャーナリズムを変える』などの著書で知られる湯川鶴章氏のポッドキャスト「湯川鶴章のIT潮流」の書籍化である。ポッドキャストの一周年記念と本書の出版を祝うビジネスセミナーにたまたま当日近くにいたし、無料だったので参加したときに、参加者全員に翔泳社より献本いただいたものである(太っ腹だ!)。
余談ながら、件のビジネスセミナーが始まる前に、翔泳社のモーリさんにお声をかけていただき、イベントに協力している FPN の徳力基彦さんらにご紹介いただいた。明らかに場違いなところに紛れ込んだ(何しろハンドルで登録なのもジーパン姿なのもほぼオラ一人)、しかもたびたび FPN に批判的な文章を書いているワタシのような人間も暖かく接してくださった徳力さんにこの場を借りて感謝を述べさせていただきたい。なお FPN に関しては、「エースのヒデをはじめとして素晴らしいじゃないですか」という感想で締めさせてもらった。
さて話を本書に戻すと、本書に登場する15人のうち、当人のブログを購読しているのは小林弘人氏と近藤淳也氏の二人だけだが、ポッドキャストの放送自体は本書に収録されている元ネタをほぼすべて聞いている記憶があったが、件のビジネスセミナーでもモーリさんが挨拶で語っていたようにポッドキャストは聞きっぱなしになりがちなので、こういった本にまとめる意義はあると思う。
インタビューの内容だが、湯川鶴章さんの質問はそれほど鋭いものではないので対象に切り込むような展開はないが、自身の見方をはっきりと語り、分からないところは分からないと聞くところが好感をもてる。あとこういうインタビューはインタビュアーがツッコミ役になるのが普通だと思うが、湯川鶴章さんの場合天性のボケの才能があるようで、ところどころほっこりなるようなやり取りがあったりする。
湯川 広告は増えてきているのですね。
吉松 そうですね。最初がゼロですから、増える一方でした(笑)。
湯川 ハハハ、増えるしかないですね(笑)。(60ページ)
しかし、侮るなかれ。本書の一番最後に収録されている株式会社ホットリンク内山幸樹氏のインタビューなど、このダブルボケ的なやりとりが「Googleが東京電力ならば、ホットリンクは関西電力になる」というフレーズに代表される一種の漫才に昇華されているよ。
本書は四つのパートに分かれているが、ワタシには「1 コンシューマビジネスの旗手たち」が、自分の普段の興味とはまた違ったところがあり、特に面白かった(モバゲータウンの DeNA 恐るべし)。ただし本書の先頭を飾るミクシィの笠原健治氏のインタビューは例外で、というかワタシはこの人のインタビューで面白いものを読んだことがないのだが、これはミクシィという企業の方針や立ち位置を反映しているのかもしれない。
本書の読書記録は以上だが、最後に本書を読んでいて気になった発言をいくつか引用しておく。
今までのWebというのは割と従来型メディア的な色彩が強くて「コンテンツ+広告」で成り立っていましたが、これからはやはり「コンテンツ+物販」で成り立つ時代になるんだと思うんです。コンテンツというか「人のつながり+物販」になってくるんだろうなと思うんですね。(湯川鶴章、35ページ)
たぶんモバイルというのは、リアル世界の一部で、サイバースペースではないのです。リアル世界の中で通信を行うというユビキタスシステムだから。そうするとリアル世界でイノベーションが起きる必要性があるのだと思う。(伊藤穣一、131ページ)
もともと雑誌を作っているときに私は、自分たち編集者はエージェントだと思っていました。(中略)そのエージェントの役割を今はGoogleが担っていますが、Googleよりも人間の要望を満たせるのは、やはり人間です。コンシェルジュではないのですが、情報のエージェント、情報コンシェルジュ産業というか、そういう形に少しずつなってくると思います。(小林弘人、181ページ)