どうでもよいことでこわばってしまう


 さて、タイトルを見て、これが「どうでもよいことにこだわってしまう」の続編であることに気付いた人は……まあ、いないだろうな。

 実は、この文章で書く内容は、「どうでもよいことにこだわってしまう」を読めば大体想像がつくものだったりする。つまり、それを書いた時点で、そう間をおかずにこの「どうでもよいことでこわばってしまう」という文章を書くつもりだったのだ。しかし、実際には前の文章を書いてから既に二年(!)が経過している。ワタシは病的なまでにめんどくさがりであるとともに、死ぬほど仕事が遅いのだ。情けない限りである。

 書きたい話は、結局のところ、サイトを移転しました。これからもよろしくお願いします、ということだけなのだが。


 当方がプロバイダと契約したのは1999年のはじめで、YAMDAS Project 開始とほぼ同じである。要は、プロバイダの選定にウェブサイト作成というのも大きな要素としてあったということである。

 今 blog サービスを利用している人などからすると信じられないだろうが、ワタシが契約したプロバイダは、ウェブサイトスペースは従量課金である。そう、1MB毎に料金が増えるのだ!(月50円ずつ)

 当時だってウェブサイトのスペースを従量課金などというのは少なくとも一般的ではなかった。なぜワタシはそんなけったいなプロバイダを選んだのか。

 これにはいくつか理由があるが、ウェブサイト作成という観点で言うなら、当時、ワタシは自分の力量がどの程度か、またどの程度それを継続できるかさっぱり分からなかったというのが大きい。はじめてみたはいいが、一月で飽きた、なんてこともありうる。それならすぐにサイトを止めて、その分料金を下げられたほうがよいではないかと考えたのだ。ここまで読まれた方ならお分かりだろうが、ワタシは大変なケチなのである。


 さて、そのように始まった場末のウェブサイトも、気がつけば五年以上続いてしまったわけである。その間いろいろあったが、着実にコンテンツ量も増え、段々と従量課金が(金銭的というよりは精神的に)重荷になってきた。それこそ「どうでもよいことにこだわってしまう」にもほのめかしている通り、二年前の時点で独自ドメインを取得してサイト移転、というのも十分ありえたわけである。

 なぜそうしなかったのか。まず何よりは、ワタシが病的なまでのめんどくさがりというのが一番にある。ちょうど当方の契約しているプロバイダが DION に統合され、そのうち URL が変わるとかあるだろうからそのときにしよう、などと考えているうちに時間が経ってしまった。また2001年から2002年には『Wiki Way』、2003年には『ウェブログ・ハンドブック』の翻訳をてがけたため、その間(都合良く)サイトのことを考えずに済んだというのもある。

 しかし、一番大きかったのは、サイト移転すること自体が怖かったというのがある。ワタシは長年二つのオブセッションを抱えてきた。一つは、サイト移転をしたら、それっきり読者から見放され、誰も見に来てくれなくなる、というもの。そしてもう一つは、独自ドメインで移転などという分不相応なことをすれば恐ろしい災厄に見舞われるというもの。


 えーっと、ここまで読まれて、「こいつ頭おかしいんじゃないか?」と思われてないだろうか。今、ワタシ自身自分で書いていてそう思っている(笑)。あまりにも恥ずかしいのでこれまで誰にも言ったことはないが、上の二つをワタシは真剣に恐れていた(恐れている)のだ。

 まず前者については、それほどおかしなことでもない。WWWの発明者である Tim Berners-Lee 自身「クールなURIは変わらない」という文章を書いているくらいで、アンテナやブックマークの URL を付け替えるのが面倒なのは、ワタシ自身経験上分かっている。なので当サイトのトップページに、移行のお助けをするボタンを用意させてもらった(二つだけだけど)。

 問題は後者である。これは当方のドメイン観(何じゃそりゃ)が異質なためである。独自ドメインについては、結城浩さんが「独自ドメインとノウアスフィア」という文章を書かれているが、当方の感覚はそれともずれており、要は独自ドメインというのを、それこそサラリーマンがマイホームを持つような大事と考えてしまうところがあったのだ。

 独自ドメインがマイホームなら、現在のプロバイダスペースは賃貸アパートということになり、そうしたたとえを敷衍していくと面白い比較ができそうだが、ここではしないでおく。当方が独自ドメインというのをこれだけ敷居が下がった今なお、どこか「どえらいもの」だと考えており、それで移転でもしようものなら、何か災厄が降りかかり、すぐさまサイト閉鎖に追い込まれる、というオブセッションに当方がとりつかれていたということである。恥を忍んでそれを書くのは、それで「厄落とし」をしたいというのがある。


 それならなぜ今になって yamdas.org という独自ドメインを取得し、サイト移転するのか。

 一つはたまたま時間に余裕ができたからというのがある。この二年余り、断続的に訳書に取り組んできたが、今年は結局新しい仕事に挑戦することはなかった。

 しかし、それ以上に大きかったのは、もういい加減そういうので汲々とするのが馬鹿らしくなったためだ。ちょうどインターネットマガジン10月号の激安レンタルサーバー特集を読んだのも大きい。実際契約したのはさくらインターネットのライトプランであるが、レンタルサーバを利用して、現在ウェブスペース用に支払っている額よりも安いとなれば、いい加減馬鹿馬鹿しくもなる。

 話は前後するが、yamdas.org のドメインは、約半年前に何かのときのために押さえておいた。またそれも MuuMuu Domain という年額800円足らずでドメインを取得できるサービスを知ったからで、繰り返すが、ワタシは大変なケチなのである。逆に言えば、これぐらい安価でないと利用する気になれなかったということだ。

 こうしたサービスにしろ、高機能かつ低価格なレンタルサーバが気軽に利用できるようになったのも、blog ブームが大きな要因なのかなと思うのだが、それについては既に加野瀬未友さんなどが折に触れ書いている通りである。


 さて、独自ドメインに移転し、YAMDAS Project はどのように変わるのか。

 変わりません

 これを機にサイト全体を blog ツールで構築しなおすというのはあまり考えなかったし、それを考え出したら移転は更に二年後になっていただろう。将来的にはともかく、今は現在のサイトスタイルを変える必要性を感じない。

 しかし……「将来」という言葉を使うのもおかしな話である。ワタシはオフで人に会うたびに、「早くサイト閉鎖したい」と何度も口走ってきた。実際そのときはそう思っているのである。正直、今でもこんなの早く止めたいという気持ちは確実にある。

 この「サイト閉鎖」というのをいろいろ考えてしまうところが自分も古い世代だなと思うところだが、独自ドメインへの移転を躊躇した理由に、そうすると閉鎖しにくくなるのではないかと思ったのもある。しかし、終わるときはどうやっても終わるのである。もう別にどうでもいいじゃないかと吹っ切れたということか。

 更に踏み込んで書くが、ワタシはずっと、ウェブサイトを運営することに、どこかみっともないことという意識を持ち続けてきた。何か恥ずかしいことという気持ちが今でもある。それは、だってハンドル名が yomoyomo だぜ? というレベルに留まらない根源的なものなのだが、これは blog 以降の世代にはまず理解してもらえないものだろうし、それより前の世代にだってどうだろう。


 一言で言えば後ろめたさだろうか。良い歳して、一文の得にもならない文章を書き散らしている。少なくともその間は、ワタシは他に何の活動もできないのだ。

 この五年間、ずっと YAMDAS Project で文章を書いてきた。少なくとも五年前よりは書くものは向上している。しかしそれでもたかがしれたものである。

 たとえそうだとしても、ワタシは未だにもっとうまくなりたい、もっと良質の文章を書きたいという気持ちを五年前とまったく同じように持ち続けている。結局のところ、こんなに下手でも、(本業を別とすれば)ワタシにはこれ以上にうまくできることがないのだ。他に取柄がないのだから。

 それなのに、いやだからこそ、もう早く止めてしまいたいという気持ちも強くある。その逡巡は何も解決していない。ピート・タウンゼントではないが、悩みを抱えたまま踊り続けるしかないのだろう。「ジャンルを幅広く横断した良質な文章(コラム、エッセイ、雑文、与太話、翻訳文)の提供」というサイトの目標は変わりようがない。

 ただこれからは、いろいろな意味で余裕が持てるのでそれはありがたいと思う。ちょっとした実験もやりやすくなるし。本当は、シンプル過ぎるにもほどがある、というまるでモーリン・タッカーのドラムのようなデザインを、せめてサイトのトップページだけでも少しはポータル風にしたり、YAMDAS現更新履歴のほうにもサイドバーを設けるとかぼちぼちやっていきたいというのがあるが、ワタシのことだから時間がかかるでしょうな。

 書くのが遅れたが、今回の URL 変更は YAMDAS Project 本体だけであり、はてなダイアリーのYAMDAS現更新履歴のほうに変更はない。そちらを巡回のポイントにしている人は、やはり何か変更することはないということである。また、現在 LOVELOG で運営しているyomoyomoの読書記録については、いずれ yamdas.org のほうに移したいが、その辺についてもおいおい考えていくことにする。


 それでは、いつまで続くかは分かりませんが、YAMDAS Project をこれからもよろしくお願いします。


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初出公開: 2004年09月21日、 最終更新日: 2004年09月23日
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