オープンソースビジネスを構築する

著者: Tarus Balog

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Tarus Balog による Building an open source business の日本語訳である。


2002年、私は OpenNMS というオープンソースのネットワーク管理アプリケーションプラットフォームを立ち上げた企業である Oculan で働いていた。Oculan はこのプラットフォームをネットワーク管理アプライアンスの基盤に利用していたが、私の仕事はそのプラットフォーム周りでサービスを作り、ビジネスを支援することだった。

5月に OpenNMS バージョン1.0をリリースした直後、Oculan の新たな投資家は、アプライアンスにフォーカスし、OpenNMS への関与を止めることを決めた。

少なくとも一人は OpenNMS の専任がいないと OpenNMS が死んでしまうと思ったし、私自身見切りをつけるつもりはなかった。そこで私は CEO のところに行き、OpenNMS プロジェクトの管理者にしてほしいと頼んだ。我々は少し話し合ったが、彼は腕時計を見て、金曜までに退職すれば、数台のサーバと OpenNMS のドメイン名を私に与え、OpenNMS を継続することを承認しようと言った。

CEO との話し合いは易しいほうだった。妻に退職したことを説明するほうがずっとずっと大変だった。

私がオープンソースソフトウェアに対するある種理想主義的な愛に突き動かされたと思われるかもしれない。それは事実とまったくかけ離れている。当時、私はまだ Windows デスクトップを使っていた。私が OpenNMS プロジェクトを引き受けたのは、一つの信念があったからだ。それは、ネットワーク管理の分野は、オープンソースこそが最良のビジネスソリューションになるというものだ。

これは重要である。私は楽しいからオープンソースプロジェクトに従事するボランティアの尽力を侮辱するつもりはない。私自身 OpenNMS に強い愛着があるからそれは理解している。しかし、愛のために何かをすることとそれで生計を立てることには違いがある。

HP の OpenView のような商用の管理製品に携わっていた頃、私は付加価値再販業者(Value Added Resellers:VARs)のセールストレーニングに参加した。そのセッションにおいて、ソフトウェアライセンスに1ドル支払うごとに、VAR はソフトウェアから8ドルのサービス収入を見込めると HP は指摘していた。低めに見積もっているとまではいかないにしても、経験上これは真実だった。ある仕事で私は商用の管理製品上でサービスを提供するだけの企業のために働いたが、彼らはベンダ中立を望んだためにソフトウェアライセンスを売るのをまったく止めた。

続いて起こったことは、残念なことによくあるものだった。私は遠方にいるクライアントのところに一週間後に行く予定を立て、日曜に飛ぶ。月曜日、私はソフトウェアをインストールし、それは大概すんなりいくものだった。しかし、そのときは火曜日にプロジェクト全体を停めてしまうバグを見つけてしまう。

私は、大抵この問題を知っているベンダに電話をした。素晴らしい! いつパッチをもらえる? 彼らの答えは、4〜6週間後だった。

(ため息)

これよりよくある筋書きとして、クライアントには監視が必要なある種独特のビジネスプロセスがあるが、ツールに同梱しているデフォルトのモニタではそれが扱えないということがある。必要に応じてそれをいじれないと、我々はそのビジネスプロセスのほうをツールにあわせようとして苦労することになる。

そこでオープンソースだ。

OpenNMS に触れた初期の経験から、オープンソースがより良い選択肢を提供することを理解した。コードが手に入るので、パッチは即座に適用できる。また、オープンソースによりツールをビジネスプロセスに適合させる(その逆ではない)ことが可能になった。これらは両方とも劇的にデプロイにかかる時間を減らしたし、ライセンスコストがかからないのでクライアントはずっとお金を節約できる。

私がオープンソースビジネスを始めようと決めた理由は、より良いソリューションを提供することに帰着する――それだけである。ソフトウェアライセンスに1ドル払うかわりに、クライアントはその金を保持できる。サービス代に8ドル払うかわりに、クライアントは、例えばその半額でソリューションをデプロイできるわけだ。私は好きなことをし、いい稼ぎをし、しかもクライアントのお金を節約したことになる。

これについて考えるにつれ、オープンソースがエンタープライズソフトウェア市場でいかに革命的な役割を果たしうるか私にも分かるようになった。これからちょっと思考実験をしよう。

ソフトウェア市場――例えばネットワーク管理分野――を二つの製品に分割できると考えてみよう。一つは何でもできるが価格が1万ドルで、もう一つはその10%の機能しかないが、無料でオープン。

商用ソリューションの値札は自動的に多くのユーザを除外することになり、その人たちはオープンソースに目を向けざるをえなくなる。とはいえ一部のユーザはその10%の機能に満足し、無条件でそれを選択する。

例えば、私の机には初代マッキントッシュ機がある。それは MacWrite というワープロソフトを走らせる。MacWrite はスペルチェックを除けば、私がワープロソフトに必要とするあらゆる機能が入っている。段落の書式を整え、フォントを選び、テキストをボールドにしたりイタリックにしたり、絵やグラフをペーストすることだってできる。「見るものが手に入る」ユーザインタフェースが全部込みである。

MacWrite は 76K のディスク領域をとる。ここでの「K」は「キロバイト」だからね。

それと Microsoft Word を比べてみよう。最後にインストールしたとき、Word だけで 30MB くらいあったと思う。MacWrite の何倍もの大きさだが、私は MacWrite ほど Word を使わない。私同様、多くのユーザが基本機能に満足している。すべての付加機能を必要としているわけではないのだ。

ここで私のアナロジーに立ち返ろう。はじめは営利企業はオープンソースプロジェクトを無視するだろう。彼らの収入源に何ら脅威ではないのに、何で新興勢力に注意を向けなきゃならない?

しかし、このプロジェクトが健全で持続可能なものなら、ことによると一年かそこらで商用製品の15%-20%の機能を持つことになる。これは彼らのビジネスから少なからぬユーザを奪い取るはずで、そうなれば彼らも注意を向けはじめるかもしれない。

多分この注意はオープンソースプロジェクトに敵対するマーケティングの形を取ることになる。プロジェクトをまともな存在と見るには小さすぎる、あるいは非力すぎると主張するわけだ。そして短期的には多分これがうまくいくだろう。しかし、彼らがオープンソースプロジェクトを認知したという事実だけでも興味をひくことになる。プロジェクトが小さすぎるわけでも非力すぎるわけでもないと判断して利用を始めるユーザもいるだろう。

もう一二年したら、プロジェクトは商用製品の機能の50%のところまで達している。人々は大挙してプロジェクトに参加し始める。今度は営利企業も何かしなくてはならない。彼らは何をするだろう? 機能追加である。

この商用製品が既に人々が必要とする100%の機能を既に持っていることを思い出していただきたい。そこでどんな機能を追加できるというのだ? 必要のない機能だ。ユーザインタフェースの見た目を変えたり、ネットワーク管理以外の機能を追加するかもしれない。いずれにせよ、この開発にはお金がかかるので、その企業の利幅を蝕み始めることになる。

しまいには、健全なコミュニティと新規ユーザの流入により、オープンソースプロジェクトは商用製品の 80%-90% まで近づく。収入源がすべて尽きてしまっても、営利企業には一つ最後の選択肢がある。既存顧客の締め上げだ。もっと課金する方法を見つけ、投資から引き上げられるものを探すが、最終的にはクライアントを追い払うことになる。

ありそうもないって? 私はそう思わない。主な必要条件は二つだけだ。

第一に、ネットワーク管理などオープンソースが切実な選択肢を提供する市場を見つけること。

第二に、オープンソースプロジェクトの周りに持続可能なコミュニティを構築すること。

後者は容易ではない。それについてはこれから公開する二つの文章に書きたいと思う。

最後に、私は自分が OpenNMS の管理者として最初の年に貯金から5000ドル使ったことを付け加えておくべきだろう。それからは毎年お金を稼いでおり、今ではプロジェクトの商用部門に三つの国で12名の従業員を抱えており、7桁の収入(訳注:100万ドル単位)を得ている。Oculan は2004年に閉鎖した

オープンソースは単に優れた設計理念というだけではない。それは優れたビジネスなのだ。

本文はオープンソースビジネスの開始と運営について探究する一連の記事の一番目の文章である。


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初出公開: 2010年03月15日、 最終更新日: 2010年03月15日
著者: Tarus Balog
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)

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