スタートアップの創業者は何が欲しいのか?

著者: Aaron Swartz

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Aaron Swartz による What do startup founders want? の日本語訳を著者の許諾を得て公開するものである。


しばし思いっきり単純化させてもらう。

ニューヨークの住人は金を欲しがる。ロサンゼルスの住人は名声を欲しがる。ワシントンDCの住人は権力を欲しがる。マイアミの住人は楽しみを欲しがる。ならば、サンフランシスコの住人は何が欲しいのだろう?

まず金ではない。確かにたくさんの金を稼ぐスタートアップは立派だが、それが目的ではないのは明らかだ。思うに、価値のないものを作り、それで大企業をたぶらかして大金で買ってもらうのを良しとするスタートアップの創業者はほとんどいない。

それに名声でもない。確かにマーク・ザッカーバーグは今や有名人だが、実際のところ彼はそのことに他の何よりも悩まされてるように見える。

そして権力でもない。そうでなければ、GitHub の創業者たちがその権力をすべて従業員に委譲しているのが非合理に見えるだろう。ポール・ブックハイトが Gmail を書いたのは、ユーザの行動を支配したかったからではない。

もちろん楽しみを欲しがるというのも違う(とはいえ、困難事が大抵そうであるように、スタートアップというものは、実際驚くほど楽しいのだけど)。

そうじゃなくて、スタートアップの創業者が欲しがるものは重要性だと思うのだ。

重要性はちょっと権力にも似ているが、その力はずっと弱い。権力とは、人々に自分たちなしにはしないであろう何かをさせるのを可能にすることだ。Instagram の創業者は権力のためにそれを始めたのではない。彼らは、人々が自分たちなしには撮らないであろう写真を撮らせることにはほとんど関心がなかった。しかしそれでも、彼らの決定はユーザに多大な重要性を持った。もし彼らがアプリに広告を入れたり、ユーザがお気に入りのフィルタを排除したら、何百万もの人たちの生活が途端に少し気に障るものになる。

そのちょっとした決定が人々に多大な影響をもたらすのだから、あなたが重要ならあなたが話さずにいられないことを皆が聞きたがる。あなたは TED や WEF(訳注:世界経済フォーラム)に行けるし、オーディエンスはあなたと話をしに近づいてくるが、それは彼らがあなたから何か欲しいのではなく、あなたが考えることが彼らの生活に大きな影響力を持つからだ。

これがスタートアップを売るのがとても難しい理由である。それで金と名声を得ることはできるが、重要性を大きく失うことになるからだ。今度 TED に出向いても、あなたは過去の人。古き良き日々がどうだったかの質問に答えるだけ。

重要性は影響力とは異なる。ティム・バーナーズ=リー(ウェブの発明者)は世界に多大な影響を持っていたが、現在は彼は特には重要ではない。彼は昔、セマンティック・ウェブこそが次の目玉だと判断したが、彼が現実にそのためにできることは事実上ほとんどなかったので、重要視する人は少なかった。

一方、ディック・コストロ(Twitter の CEO)はずっと重要である。もし彼が Twitter に「一貫したユーザ体験」が必要だと判断したら、何百万もの人々が毎日利用するアプリを遮断して、それを作る会社を破壊できる。

我々は皆、金や権力の危険性を知っている。しかし、重要性を求める危険性はほとんど議論されない。重要性はものを集中させる傾向があるが、それはイノベーションを抑制し、現実の権力の要求に身を晒す可能性が高くなる。

ティムが、Twitter と同じようにウェブを作ったと想像してみよう。我々のウェブページは、彼らが規定しいつでも変更可能な API を通じてアクセスされ、すべて一企業にホストされることになる。ウェブアプリケーションは、(ティムの会社のサーバに何か面白いものを格納するのが難しくなるので)今日のそれよりもずっと弱々しいものになるし、強大な企業が絶えず各種サービス利用規約違反(商標権侵害禁止! ヘイトスピーチ禁止!)で人々を永久にオフラインに叩き出すだろう。

それでティムはこの世界でずっと重要になれるだろうが、そのほうが他の我々もずっと良かったとは思わないね。


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初出公開: 2012年08月27日、 最終更新日: 2012年08月27日
著者: Aaron Swartz
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)