インターネットにまつわる「とほほ」


 新婚生活中の同期の家でちょっとしたホームパーティが開かれ、筆者もお招きに預かった週末の話である。

 実際のところ、ホームパーティというよりは予めワインを赤白ロゼ一本ずつ、シャンパン・焼酎二本ずつ、そしてビールもふんだんに用意してあるという「酒豪の会」という趣であったが、同期の新妻を中心として用意された夕食が素晴らしかったことと、命のやり取りをするような激しい飲み方をしなかったことで、とても楽しめた。実際には次の日になってもだらだらと居座って(新妻がまだ半分しか読んでない「五体不満足」を何故か短時間で読破してしまった)ほぼ一日ご厄介になってしまったのだけど。

 宴の途中で一人が「yomoyomo のホームページを見てみよう!」と言い出した。新宅ではダイアルアップ接続が可能になったばかりだった。

 以前にも書いたことだが、当サイトを立ち上げた際、会社の同期など身近な人間にはその URL を教えなかった。最近では隠すようなことはしないが、オトモダチ向けの射程距離の短い自慰サイトになることをひどく恐れていたのだ。

 しかし、他人のショバで客観的に自分の作った Web ページを見ると、何とも珍妙な心持ちになるものだ。気恥ずかしいというのもあるが、「これ書いた奴は余程の馬鹿だな」と冷静に思ったりしてしまう。少なくとも、YAMDAS対談の AV について語った回を見られるなんて拷問だ!


 それはともかくとして、プロバイダにつなぐまで参考にしたと思しき「ISIZE あちゃら」99年6月号が床に転がっていた。何故この雑誌を参考にしたのかは疑問だが、普段この手のインターネット初心者向け雑誌をまず読むことがないので、この機会に興味深く読ませてもらった。

 しかしねえ、メル友という言葉は知っていたが(ネッ友という言葉は初めて読んだ)、それを募集するのに雑誌媒体を使ってどうするのだろう。それにメル友という発想がおぢさんには分からんよ。確かに僕にしてもメールを媒介に知り合った友人も少数ながらいる。しかしながらわざわざ募集してまでトモダチを欲しいとは思わない。

 発展途上、と書いてしまえばそれで話は大体片付くのだが、やはりインターネットを巡る現状は、「ヘン」としか言いようがないところが散見される。

 しかし、そのネット社会独特の異物感を自分の作ったページを見て感じるとは。心底詰まらない日記ページ(日本特有の現象などとかつて言われたが、今でも「日記界」とやらはこの国特有のものなのだろうか)や、フレーマーのせいで荒れまくった掲示板と無縁なだけではこの本質的な違和感からは逃れられない。当たり前だが。


 さて、散々「とほほ」さ加減を味わい、内容のレベルの低い雑誌をめくるのも飽き出した頃、「インターネット危機対策基礎用語辞典」という大層なタイトルのコーナー(89ページ)が目にとまった。クラッカーやらコンピュータウィルスやらが話題にのぼる昨今である。ここら辺の基礎的な部分の啓蒙も意義があるだろう。

 しかし! いきなり目に飛び込んだ「SPAM(スパム)」の定義に腰砕けになってしまった。以下その全文である。

迷惑メールの総称。SPAM 本来の意味はコンビーフの商品名だ。レストランである男性が料理をオーダーしようとしたところ、ウエイトレスの美女が、「スパム、スパム、スパム・・・」とずっと歌い続けたため、その男性が思わず「スパム」を注文してしまった、というアメリカのコメディ番組が語源といわれている。

 上から下までに完全に間違い。SPAM とコンビーフは別物だし、ウエイトレスは美女じゃないし、男性はおもわず注文してしまったわけでないし、何しろ元ネタの「Monty Python's Flying Circus」はイギリスのテレビ番組だぜ! 一体どんな馬鹿がどんな調査をやって書いたのだろう。確かに spam の語源を間違ったところで実害はないから、目くじらを立てる程のものでもない(パイソニアンである当方には許し難いが)。そういえば、昨年末の Internet Week '98 でも、日本を代表するハッカーである山本和彦氏が「spam メールの語源は、SPAM の CM が商品名を連呼するしつこいものだったからです」と間違いぶっこいていたことを考えれば大目に見てもいいだろう。

 しかし、前述の「辞典」において、意味不明の説明はそれだけではなかったのだ。

 完全に×というわけではないのだけどさあ・・・恐らくはどこかに書いてあった定義をそのまま書くわけにいかなくて、少し表現を変えてパクったら上のようになったのだろう。そう考えると、spam の語源の大嘘も納得がいく。これは推測だが、「スパムについての基礎知識」(注:現在このページはなくなったようです)あたりの解説をちょろっと見て書いたのだろう。悲しいことに、これ自体が間違っている。もう少しちゃんと探せば的確に書かれた spam の語源の解説を見つけることができ、恥を晒さずに済んだのに。


 インターネットの現状を色んな人が色んな風に分析している。でも、一般ユーザのレベルも、それを支援する筈の活字媒体も、そして何より自分が作るサイトも、未だに「とほほ」というのが最も適切なところだ。やっぱり日本はこの分野に関しては後進国だ。これからも奇妙な形で発展、というか変質しつつぶくぶく増長していくのだろうな。

 山形浩生が書いた「インターネットの中年化」に対抗して「インターネットの子ギャル化」などとブチ上げてみたいところだが、書いてて吐気を催しそうなのでこの辺でおしまいにする。


[後記]:
 spam の語源についてはこの文章を書いたあとも、Macska さんの解説を引き写したと思しき間違いを雑誌でも見つけて心底悲しくなる。そして、ついに spam について書かれた RFC2635 においてちゃんと spam の語源が Monty Python のスケッチであることが明記された! Monty Python とハッカー文化は非常に馴染みが深いのである。プログラミング言語の Python も勿論のことこれからとられているし。


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初出公開: 1999年06月07日、 最終更新日: 2000年09月27日
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