Web 2.0についてのインタビュー

著者: Paul Graham

日本語訳: Toshiro Yagi


以下の文章は、Paul Graham による Interview About WEB 2.0Toshiro Yagi による日本語訳で、原著者の許可を得て公開するものである。

<版権表示>
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Copyright 2006 by Paul Graham
原文: http://www.paulgraham.com/web20interview.html
日本語訳:Toshiro Yagi(yagi at lovemorgue dot org)
<版権表示終り>


(イアン・ドレイニーが新作のために僕にインタビューしたいといってきた。回答をオンラインで公開していいという条件で受けることにした)

1. ドットコムバブルからわれわれが学んだことは何でしょうか?(または、何を学ぶべきだったのでしょうか?)

いわゆる「バブル」からみんなが学んだことのひとつは、新興企業についてはもっと慎重に判断を下すことですね。当時は本当にひどいアイデアでも資金を獲得していました。騙されたのは投資家たちだけじゃありません。そんな会社で働くことになった人たちも同じです。今ではみんなもっと慎重になっています。

とはいえ、お金を稼ぐための練り上げられたプランをもった会社しか相手にしてはいけないというわけではありません。それでは羹に懲りてなますを吹くことになりかねません。将来大々的な人気を博すことになるウェブベースの新興企業を立ち上げれば、きっとそこからお金を稼ぐ方法をひとつくらい見つけ出すことが出来るでしょう。人気のあるサイトのほとんどがそうやってきましたから。

何かしら人気のあるものを作り上げるというアイデアがあれば、そこからお金を稼ぐ方法をひねり出すという考え方はバブル期に生まれました。いい加減なやり方に思えるかもしれませんが、実際うまくいっています。創立者にお金を稼ぐ方法をきちんとまとめあげることを求めるのはビジネスセンスとして固すぎるものではありません。それはハッカーがいうところのいわゆる「早すぎる最適化」です。本当に大事なのは、人々が求めるものを作るということなのです。

バブル期に失敗した大抵の新興企業は、誰も欲しがらないものを作ったせいで失敗しました。いいものを作ったところもありましたが、資金を早く食い潰して失敗しました。ですからこれがルールその2ですね。無駄遣いするなということです。

人々の欲しがるものを作って無駄遣いしなければ、目標の90%にまでは到達したようなものです。

ビジネスの部分はどうでもいいといっているわけではありませんよ。ただ、人々が欲しがるものを作るのに比べると、これは本当に難しいことですから、そちらの方は比較的簡単なのです。

2. ネット関連の新興企業の今の株価高騰の原因は何でしょうか?

思うに、現在の起業ブームには二つの理由があります。一つは単純に不景気が徐々に回復してきているためです。インターネットは蒸気機関の到来に匹敵するほとの大きな変化を担っています。人々がそれに熱狂するのも当然で、バブル後の停滞が今では回復したというわけです。

もう一つの要因はGoogleにあります。Googleは人々を再びウェブに熱狂させましたが、それは彼らがIPOしたからだけではありません。彼らは優秀な人材を集め、みんなに向かって刺激を発信しています。

起業は今より一般的なものにはならないでしょう。なぜなら今は立ち上げは非常に安く出来るからです。私たちが資金を出した新興企業の多くでは、最初の年に最も大きな支出となったのは食費と家賃でした。新興企業を立ち上げるのは、ぶらぶらするよりややお金がかかる程度なのです。その上、どこかのオフィスパークのパーティションで仕事をしに出かけるのではなく、自分のプロジェクトで友人たちと一緒に働きます。もし成功すれば金持ちになれます。全体として、20代の人間にとっては、これはなかなか素敵な将来像ですね。

3. 「Web 2.0」は本物でしょうか、それとも複数の非同質な現象についての便利なラベルでしょうか?

「Web 2.0」は不可解なフレーズです。最初はカンファレンスの名前だったのに、そのカンファレンスを組織した人たちもそれがどういうことを意味しているのか理解していなかったのです。おそらくはそれがキャッチーな名前だと思われたのでしょう。しかし、「Web 2.0」はそれ以降はひとつの手段という意味を持つようになりました。ウェブにいくつか面白いトレンドがあり、この手のフレーズの性質からして、そこに張り付いていくようになったのも自然なことです。

まるで、誰かがその名前を印刷した付箋紙のラベルを床にバラ撒いたのが、通りがかりの人の踵に張り付いたようなものです。ラベルの名前はでたらめなものですが、その人は本物という風に。

4. 「人々がインターネットを取り戻した」から「新しいものなど一つたりともありはしない」まで様々な意見が寄せられています。あなたの立場は?

本当に新しいことがインターネットに起こっていると思います。そうでなければ奇妙な話です。テクノロジーのあらゆる分野で新しいことが置きています。たくさんの賢い人たちがインターネット関連のあれやこれやに取り組んでいる今、新しいアイデアが見つかっているのは当然でしょう。

1998年と現在とでは物事は大きく違っています。ウェブサイトの外見も違う。新興企業の経営も違うかたちで行われています。人々のウェブの使い方も違います。変化は徐々に起きましたが、段階的変化でも十分な大きさの変化があれば、それはもう違う世界になろうとしているものなのです。

5. 投資を求める新興ウェブ企業のどんなところに注目しますか?

私たちは創業者に2つのポイントを求めます。知力と意欲です。この一年で私たちが学んだのは、自分たちで思っていたよりも意欲は大事なものであって、知力はそれほどでもないということですね。創業者が間抜けだというのはなかなかあり得ないですから、誰もがある程度のレベル以上である以上、最も重要なのは意欲なのです。

デザインのセンスも大きな利点ですね。大企業ではデザインは後からなんとでもなるかのように扱われています。Googleでさえも同じ問題を抱えているのです。彼らの最も大きな弱点は、彼らにおけるハッカーという語の定義には、十分なデザインの要素が含まれていません。デザインのセンスがあるハッカーは本当に、特に新興企業の創立者としては危険な存在です。

知力や意欲を推し量る証拠として見る場合を除けば、私たちは最初のアイデアには必要以上には注意を払うことはしません。アイデアは後から変化するものです。最も大事なのは創業者が本当に起業したいのかです。

適度に聡明かつ最大限に熱心な創業メンバーには成功出来る大きな可能性があります。起業はとても安く出来るので、今なら真に意思さえあれば成功するためにかけられる時間はあります。最初はうまくいかなくてもいいのです。何度か繰り返して経験を積むことが出来るのです。

6. インターネット広告は大きな伸びが期待されています。いわゆる「ロングテール」はこれによる利益を得るのでしょうか?

広告で稼ぐには、自分で広告を販売するプランを立てるか、あるいはアドセンスのようなものを利用する必要があります。残念ながら今のアドセンスのキーワードベースのモデルはあらゆる新興企業に合うものではありません。しかし、この手の利益は最初期にはちょっとした助けになります。新興企業が利益を生むようになるほどではありませんが、最初の資金を持たせることは出来るかもしれず、そうなればより時間を稼ぐことが出来ます。

7. 今のトレンドには多くの誇大広告もあります。これはバブルの様相といえるでしょうか?

いいえ、これがバブルだとは思いません。VCが現在投資している企業は1999年に彼らが資金を出していた企業のお笑い種ぶりとはまるで違っています。手の込んだパロディみたいに思われるくらいに。

誇大広告がたくさんあるのは確かです。例えば、格好つけて安っぽい「Web 2.0」のデザイン要素を使っているサイトはたくさんあります。フェードだの「ベータ版」だの大きなフォントのような手合いはあと何年もすればひどく古くさいものに見えるようになるでしょう。でも安っぽいデザインがバブルを生むわけではありません。バブルの指標は投資であり、それはまだ抑えられています。

8. どんなアイデア/価値/アプローチがWeb 2.0からWeb 3.0だかへの永続的な変化をもたらすと考えますか?

Web 3.0なんてものが現れるとは思えません。ウェブの未来についてのお気に入りの理論に「Web 3.0」というフレーズを使う人がたくさん現れたせいで信憑性がなくなり、またその時までにはもうそんな名前にふさわしい大きな変化が起きてしまっていて、誰も使いたがらなくなっているでしょう。「Web 2.0」の信憑性も今や怪しいものです。私の知っている人でこの言葉を真面目に使っている人なんてほとんどいません。「Web 3.0」はたぶんもう終わってますね。

でも、第一の質問については、そうです、永続するトレンドは確かにあると思います。ひとつはユーザがよりフォーカスされていること。二つの変種があって、一番はっきりしているのはソーシャルネットワーキングのサイトです。そこでは完全にユーザーについてしか取り沙汰されません。それから、ちょっと見ただけではわからない変種もあって、DiggやRedditのようにトップ記事が投票によって決められるニュースサイトや、Blogger や最近ではYouTubeのように人々が自分の事柄を投稿するサイトがそうです。この「事柄」は今は「ユーザ生成型コンテンツ」と呼ばれていますが、これがデフォルトになればもっと短い名前がつくようになるでしょうね。

もう一つ残っているトレンドがウェブベースのソフトウェアです。これは90年代に始まりましたが、今ではもっと多機能になって誰もがその未来を見ています…あのマイクロソフトでさえ。思うに20年以内に人々が使うソフトウェアの大半はサーバ上で動くようになるでしょう。

さらに、生き残っていく社会的トレンドというものがあります。起業の世界はビジネス畑の人間ではなく技術畑の人が制するようになるでしょう。他の色々なエリアと同様、Googleが未来の典型となります。Googleを支配しているのはハッカーで、だからGoogleが勝利しているのです。

バブル時代の典型的に駄目な新興企業の多くは、起業してから自分たちのアイデアを実装するハッカーを探すビジネス畑の人間によって始められたせいでそんな風になってしまいました。このモデルは1960年代には通用しましたが、1998年にはあまりうまくいかなくなり、年々陳腐化しています。思うに未来はハッカーが握っています。テクノロジーはかつてないほどビジネスの中でも大きな部分を占めるようになり、そのため当然ながら権力はマネージメントやファイナンスよりもテクノロジーの専門家へとシフトしています。

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初出公開: 2006年07月17日、 最終更新日: 2006年07月21日
著者: Paul Graham
日本語訳: Toshiro Yagi(yagi at lovemorgue dot org)