90年代ももうゴール間近である。こんな企画もそろそろ嫌というほど出てくるだろうから、何かの拍子で7の月に地球が滅びたりするとヤバイので、今のうちどさくさ紛れで僕も一発やっておく。各アルバムへのコメントが独断と偏見に満ちているのはご容赦願いたい。
10枚選ぶだけでも結構苦心した。血尿を流す思いで選んだ10枚に更に順位を付けるなど死んでもできないので、アーティスト(バンド)のアルファベット順に並べている。つまり、順不同である。括弧内は発表年。
何でこのアルバムが入らないのだ/入るのだ、馬鹿野郎、という意見をお待ちしてます。
これは僕個人の好みで入れさせてもらった。Pulp というバンド、そしてこのアルバムへの愛着は捨て難い。それはジャービス・コッカーという汎英国的キャラクターへの愛着、とも言い換えることが出来るのだろうが、もう一つは当方の音楽原体験の一つである YMO まで溯るピコピコ音好き(笑)があることは認めざるを得ない。
そして今作には以前には感じられなかったパワフルさがあるし、市井の人々を暖かくもキッチュに描いた歌詞も健在である。ヒット曲 "Mis-Shapes" 、"Disco 2000" なんて歌詞カード読みながら聴くと泣きそうになっちまう。勿論このアルバムは大ヒット曲 "Common People" で記憶されるのだろうが、性愛のなんとも言えないもどかしさを描いた"Pencil Skirt" 、"Underwear"なんか目茶苦茶好きである。
98年の秋、台風が日本列島を大暴れする中を人生どしゃ降り状態で大阪まで彼らのライブを見に行ったが、舞台にジャービスが現れ、何ともヘナチョコなファイティング・ポーズもどきを取る姿を見た瞬間、至福感で身体から力を抜け、失禁しそうになった。アンコールのお約束 "Common People" で窒息状態に陥ったが、「僕らも15年かけてここまで来たんだ。君たちだってできるよ」というグラストンベリー・フェスでのライブ史上に残る名MCを思い出し、またもや至福感に包まれた。さぞやアブナイ笑顔を浮かべていたことだろう。
正直言って、このアルバムについては何とも説明できない。言葉が出てこない。もっともらしい言葉で言い繕うことも可能だろうが、それはしたくない。アルバムを聴く、僕に出来るのはそれだけなのだ。泣くことも笑うことも退屈もしない。ただアルバムを集中して聴く。これからもずっと聴き続けるだろう。
あと付記しておくと、日本盤の田中宗一郎による解説が醜悪だ。この人のライナーは、情緒的な文章が鼻をつくときがある。インタビュアーとしては優秀なのに。
90年代の R.E.M の5作品はどれも素晴らしい。なんだかんだと浮き沈みの激しい業界で、これだけ良質の作品を数多く作り出したことにはもっと敬意が払われてしかるべきだ。90年代最高のロックバンドは、彼らに違いない。
商業的には期待外れの結果に終わった本作を選ぶのはいささかバツが悪いが、僕はこのアルバムが一番好きだ。躁鬱病のような「Out Of Time」、それぞれアコースティック、ノイジー、エレクトロニック、と大まかに色分けされる「Automatic For The People」「Monster」「Up」よりも全体的なバランスが良いし、スコット・リットがプロデューサーとして参加した最後のアルバムであることも含め、制作スタイルは変則的とはいえ、このアルバムは R.E.M の一つの総決算と言えるだろう。
ピアノの奇妙な旋律が耳に残る一曲目が終わった途端爆発する "The Wake-up Bomb" のカタルシスもいいが、M5〜8あたりの中盤な流れが何より素晴らしい。特に "Leave" は R.E.M の構成要素を全て含んだ彼ららしい、しかも更に一歩高みに上り詰めた名曲である。
これも僕の好みで入れさせてもらった。別に革新的なサウンドではない。むしろ非常にオーソドックスなフォーマットに則った音である。しかし、このアルバムの全曲が持つ瑞々しさ、優美さ、生生しさ、そして何より全曲を貫く男のいじましい欲望を描出した歌詞(笑)が僕を掴んで離さない。
楽曲はどれも素晴らしいし、ルー・リードの80年代の全盛期を支えたフレッド・マー、ロバート・クインに加え、リチャード・ロイド(ex. テレビジョン)、リック・メンク(ヴェルヴェット・クラッシュ)がサポートするという完璧な布陣である。このメンツのライブを見てみたかったなあ。
99年に発表された作品から一枚と思い、トム・ウェイツの6年ぶりのオリジナル作品を選んだ。実は Red Hot Chili Peppers の「Californication」が99年のベスト作なのだが、もう彼らは入っているのでこちらにした。
というか、サントラや企画ものでない、彼本来の作品が聞けたのが嬉しくて、それだけで選んだようなもんだ。80年代の名作「Swordfishtrombones」「Rain Dogs」あたりになぞらえる人も多いが、よりオーソドックスなブルーズに近く、前述の作品の持つパーカッシブさは後退している。しかし、一曲目の "Big In Japan"(笑)の迫力を前にするとどうでもよくのなるのだけど。
バックメンバー的にも黄金地味渋な連中が再結集している。特にベースのグレッグ・コーエン、この人は92年のルー・リードの来日公演でも弾いていたし、意外なところではトリッキーのアルバムにも参加してたし、ロバート・アルトマンの傑作「ショート・カット」のラストの演奏シーンでも・・・と嬉々として語れてしまう自分はオタクなんだろうな。
リストにしてみると、偏向しているな、とは思う。何しろニルヴァーナもベックもビースティーズも選ばれていない。
ニルヴァーナを選ばないのは、変な反省の意味が込められている。僕は「Nevermind」を単なる消費財としか見なしていなかった。"Smells Like Teen Spirits" には凄まじくエキサイトしたし、"Polly" の不穏さに興奮させられた。しかし、僕は彼らがオルタナティブたる本質を理解してなかった。今更理解者ぶって「彼らはグレートだった。カート・コバーンの自殺はショックだった」なんて白々しいことは僕には書けない。
僕はベックが嫌いだ。正確に書くと、ベックを好きなことで自分のロックに対する趣味の良さを主張する連中が嫌いだ。ベック自体の良さも、周りが喧伝するほど僕には分からないし。