Reeling In The Ears


 耳かきというのは何故かくも気持ち良いのだろう。このあたりのメカニズムを解き明かした人はいるのだろうか。

 人間の身体機能は実用性に即した無駄のないものになっていて……とは必ずしも言えないのだが、大枠のところではそうまとめてしまっても構わないだろう。例えば、人間が性交に励むのは、単純に言ってしまえばそれが快楽だからだ。もちろんとても快楽とは呼べない性交が横行しているのは存じておりますし、実際には愛情やら家族計画などのもろもろが絡んでくるのだが、仮に性交毎に男女の性器が一週間ぐらい腫れ上がるとしたら、事態はもっと変わっていたはずだ(何の事態だ?)。

 そう考えた場合、耳かきの気持ち良さにも何かしら生物学的に隠された意味があるのではと深読みしてしまう。耳かきを行うのは人間だけだ(と思う)。実はここらへんに人間が人間として進化した謎が隠されており、その快楽原則のメカニズムを解明した瞬間、人間は封印されていた根本的な真理に目覚め、現在の資本主義社会が根底が崩れてしまうとしたら恐ろしくないだろうか。金塚貞文はオナニーではなく、耳かきを研究すべきだったのかもしれない……というのはもちろんデタラメだが。


 性交を喩えに出したので思いついたのだが、例えば耳かきと風俗の融合を考えてみた。僕はそちら関係のフィールドワークの経験が極めて乏しいのだが、Google で「耳かき」と「風俗」を並べて検索してみても分かる通り、耳かきは既に風俗の1オプションになっているようだ。

 ここで一歩進めて、耳かき専門の風俗なんてどうだろう。当然ながら膝枕で耳かきである。それだけでは能がないので、女性側はコスプレだろうか。和服がデフォルトとして(そうなのか?)、看護婦、スチュワーデス、チャイナドレス、パジャマ姿(きたさんのリクエスト)、そして裸エプロンあたりを基本とする。男性側は女性の股に顔をうずめたり、腰を撫でる程度を良いがそれ以上はNGとする。刺激が足らないって? いやなに、「癒し系風俗」とでも名乗れば良いではないの。日ごろ語れない愚痴を、耳かきされながら語ってください。

 まあここまで来ると、単にイメクラで耳かきしてもらえばいいじゃないかと言われそうだし、第一耳かき専門となると、女性側はかなりの時間重しを載せた状態で正座させられることになり、一種の拷問になってしまうわけだが。


 拷問で連想したのだが、SMの耳かきプレイなんてものもあるのだろうか。当然ながら、先を鋭利なものにしたそれ専用の耳かき器を使うわけだ。鼓膜を突き破らんとする女王様の激しい耳かきに血をにじませながら奴隷が悶絶する。

 「てめぇなんかワタシの耳あかにも劣るクズなんだよ! そのくせこんなに耳あかためやがって」「ひぃっ、痛い、女王さまぁぁっ」「耳あか以下のくせに一人前の口をききやがって。おらおら」「ぎゃーっ、痛い、痛い! 痛イケレド楽シイ、コノ上ナク楽シイ、生キテイタ時ヨリ遥カニ楽シイ。モット掻イテクレ、モット掻イテクレ」…と何故か途中から大谷崎の「瘋癲老人日記」になってしまったが、こうやって書いてみると、元々快楽であるものを恐怖と苦痛に変え、そこからまた快楽を得るというのはSMにぴったりの素材だとは思うが、奴隷の耳かきをする女王様という図式自体が何やら間抜けである。却下。

 やはり素人が思いつくのはこの程度である。あとは玄人にまかせるとする(って何をよ?)。


 というわけで何の建設性もない駄文になってしまったが、ついでに耳掃除に関して前から思うところを書いておきたい。

 かなり以前に母親から聞いた話だと思うのだが、誰かが耳の聞こえが悪くなり、何かの病気かと耳鼻科に行って診てもらったところ、なんのことはない「耳あかの溜まり過ぎ」だったらしく、耳洗浄をやってもらったらあっさり聞こえるようになったとのこと。で、耳鼻科の先生がその人に言ったという、「耳も病院で掃除するのが一番なのだけどね」という言葉が妙に記憶に残っているのだ。

 何しろ前述の通り母親からの又聞きであるので、本当に耳鼻科の先生がそういったのか分からないのだが、それ以来ずっと僕の中で「耳洗浄への憧れ」があるのですね。いつかやってもらいたいと思うのだが、病気でもないのに耳鼻科に行って「耳の中洗ってくれ」なんて言ったらおかしな人扱いされそうで行動に移したことはない。

 この場を借りて経験のある方に伺いたいのだが、耳洗浄ってどの程度ポピュラーなものなのだろうか? 耳洗浄目当てで耳鼻科に行く人もいるのだろうか?


 しかし、これで一儲けできないだろうか。日本耳鼻科協会(ってあるのか?)が「発掘あるある大事典」あたりを抱き込んで、「耳の中はこんなに汚い」「それがあなたの健康にこんな悪影響をもたらしている」「定期的な耳洗浄が必要」とかなんとか視聴者に吹き込むのである。不安を煽り、そこにつけこむのがこうしたものの常套手段である(実際、件のテレビ番組などかなりこれに近いことをやっている気がするが)。

 本当かどうか知らないが、我々がやる耳かきは実はあまり耳の掃除にはなっていないという話を聞いたことがあるし、何年か前、紙を燃やして耳あかを取る(?)怪しげな器具もあったような。耳掃除への欲求不満と需要はそこそもあると思うのだ。

 しかし、これには大きな欠点がある。我々から耳かきの快楽を奪ってしまうことになることだ。これはかなりでかい。日本耳鼻科協会は(だからそれあんのかよ)、取り急ぎ耳かきの快楽を越えるほど気持ち良い耳洗浄を行う器具の開発に着手していただきたいものだ。

 とりあえず当方はこんな駄文を終わりにし、耳鼻科で「うひゃー」と悦びの叫び声を上げることを夢見ながら、耳掃除に励むことにする。


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初出公開: 2002年06月03日、 最終更新日: 2005年07月14日
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