「連想」と聞いてワタシが「連想」するのは「ゲーム」である。つまり、「連想ゲーム」だ。これは理屈ではない。年齢的背景、家庭環境による必然である。
「連想ゲーム」と聞いても、何のことだか分からない読者がいるかもしれないので解説しておくと、十年以上前NHKで放送されていたクイズ番組で、あるキーワードに対して、キャプテンが連想する言葉をヒントとして与え、回答者が元の言葉を答える。それを男性軍、女性軍(白組、赤組だったかな?)に分かれて交互に答え、点数を競うというものだ。
どれぐらい昔に始まり、何年続いたかというのはワタシの知ったことじゃないのだが、水曜の午後7時半が始まりだったことは何故かはっきり覚えていて、これは自分でもちょっとびっくりした。
個人的にはこの番組を自発的に見ていた記憶はない。茶の間にあったテレビのチャンネル権を握っていたオヤジは、(巨人戦の中継がなければ)デフォルトでNHKに設定していた。当時我が家に一台しかなかったテレビのチャンネル権を巡っては、ことある毎にオヤジとワタシは深刻な対立を繰り返してきたはずだが、「連想ゲーム」に関しては特にそうした記憶はない。ということは、ワタシも楽しんで見ていたのだろうか。ちょっと恥ずかしいが、こうした家庭はうち以外にも多かったと思いたい。ワタシも当時は素直な田舎の小学生で、身の周りに娯楽も少なかった。パソコンもオナニーも太宰治も知らなかった平和な時代の話である。
思わず追想モードに入ってしまったが、追想でなく「連想」の話である。
「連想」をゲームにして番組として通用させるとは、今では信じられない話だ。その高度な設定が生み出す妙な緊張感と、極めて1980年代NHK的な毒にも薬にもならない「和気あいあい」感の不思議なバランスがなせた技だろうか。
思えば出演者もなかなか異質だった。女性軍では坪内逍遥の孫にあたる坪内ミキ子がキャプテンを務め、壇一雄の娘である壇ふみが回答者にいるという文学者末裔タッグを形成していたっけ。
また、この番組が大和田獏と岡江久美子のなれ初めになったことは知られているが、今ではヤックンと二人で朝からボケている岡江久美子も、この番組においては頭脳明晰を売りにブイブイいわせていたのだ。「プチモビクスでボヨヨ〜ン」なんてやってる場合じゃないぞ(←やってないって!)。
そして、才媛岡江久美子の相手に水島裕という、ただ声が甲高いだけのおっちょこちょいを持ってきたところも、今思えばNHKならではの抜け具合を醸し出している。そういえばワタシの同級生のナカシマ君は「水島裕のマネ」を得意としていたが、「水島裕さん」の呼びかけに「ハイ!」とデカく甲高い声で答えるだけだったような。しかし、ワタシも今となっては、水島裕というと「ハイ!」と答える姿しか記憶にない…
問題の形式もかなり間抜けだったな。だいたい何なんだ「わんわんにゃんにゃんと続く言葉を当てて下さい」というのは! 加藤芳郎が「大食漢」と言葉を投げ、渡辺文雄が「ばくばく」と大真面目に答える要領だが、ここで「おおわだ」というヒントを与えるのは、「ばく」以外導きようがないので違反ヒントになる。もちろん「ぱこぱこ」「んごぐ、んごぐ」といったインビな想像をさせる言葉(なのか?)が答えの対象になることはない。NHKだもの。
そういえば坪内ミキ子の後を継いで女性軍キャプテンになった水沢アキが短期間で降ろされたのは、「こけし」のヒントに「電動」と言ったから、という話を聞いたことがある。けれども、それがそのまま放送されたわけゃないのだから、どうも都市伝説っぽい匂いがする。
「連想ゲーム」にはこの手の逸話が多い。例えば、「水玉」のヒントに元気良く「カルピス!」と商品名を答えた回答者がいて、周りが固まってしまった、とか。
しかし、その中でも横綱級なのはガッツ石松で、「リンゴ」のヒントに「ゴリラ」と答えたというものだ。つまりガッツは「連想ゲーム」を「しりとり」だと思っていたのだが、あまりにもできすぎな話なため、これも前述の疑いが頭をもたげる。でもこれは「ガッツバカ伝説」の中核を成す重要なエピソードの一つなので、そっとしておいてやりたいところだ。
…なんだかんだと言いながら、結構楽しく文章が書けてしまった。やっぱり、ワタシはあの番組を愛していたのか。
思えば最近面白いクイズ番組がすっかりなくなってしまった印象がある。当時は、「連想ゲーム」がNHK代表とすれば、「ヒントでピント」という民放代表があった。あれもかなり高度だったな。32分割だか64分割だかを即座に答える浅井慎平に驚嘆したものだ。「クイズダービー」には「はらたいらは答えを教えてもらってるんじゃないか」疑惑が根強くあったが、浅井慎平もかなり怪しいぞ。もう遅いか。
そういえば「ヒントでピント」にもガッツ伝説がある。あの番組にはモザイクの向こうでやっていることをあてさせるコーナーがあったのだが、ガッツが自信満々「セックス!」と答えたというものだ。素直なヤツだぜ、まったく。
連想しているうちに話がずれてしまったが、要は「連想ゲーム」の復活はどうだろう、という提案である。そもそも「連想ゲーム」がクイズ番組といえるのか、という根本的なところはさておき、「タイムショック」が復活するご時世である。「連想ゲーム」だってリニューアル次第でうまく…いかないかな。やはり、考えれば考えるほどNHKならではだし。
しかし、民放でもコンセプトそのものをうまく再利用することはできるはずだ。そんなことしたらNHKからパクリだと抗議が来るって? 心配ご無用。「パクリでなく連想です」と答えればよろしい。