2. ゲームの事情が異なる理由

エリック・レイモンドは、エッセイ「魔法のおなべ」の中で、「ソフトウェアは実はほとんどサービス産業なのに、製造業だという強力だけれど根拠レスな幻想に基づいて運営されているわけだ」と論じている。しかしながら、ゲームはここでの「ほとんど」に含まれない小さな部分集合の一部である。ゲームにはサポートにかかるコストがない。相互運用性や信頼性は重要でない。市販のゲームからの収益は、発売後最初の一月でほとんど全部あげるものなので、ピア・レビューの工程や段階的な品質向上から得られるものは何もない。

平均的なユーザはソフトウェアに信頼性や柔軟性を求めるし、そしてこれが最も重要なのだが、そのソフトウェアが自分の期待通りなことを求める。全てにおいて意外性をなくすという原理に従ってデザインされれば、普通の人はそのソフトウェアに満足するだろうし、何年も同じプログラムを継続して使いつづけるに違いない。一方で、ゲームプレイヤーはもっと楽しみを重視する。彼らは新しいゲームが定期的に発売されることを求めながらも、新規性や独創性を重要視する。彼らのほとんどは、真に独創性のあるものをどうしても提供できないなら、新規性のみでよしとするだろうが(ユーザ視点型のシューティングものやカー・レースもののジャンルの変わらぬ人気をみてごらん)、誰も既にプレイしたことのあるゲームと酷似したものなんかには興味をもたない。

「差異」を「品質」よりも重要視するのは、バザール・モデルのソフトウェア開発方式の意義をまるっきり否定するもので、それこそがインターネットからもたらされたあっと驚くようなゲームを未だもってみたことがない理由でもある。その好例として、僕が最近プレーし終えたばかりの、ルーカスアーツ社の本当にとびきり見事なアドベンチャー・ゲームである Grim Fandango がある。唯一不具合がゲームの中盤でおこった。動作が目にみえて遅くなり、ほとんどプレイできない状態になったのだ。これはおそらくは、メモリ管理か、CD-ROM から絶えず同じデータをリロードすることによるキャッシング・エラーの類だろうが、もし僕がソースコードを持っていたら、僕はきっと進んでそのバグを数時間で修正できただろう。けれども、僕がこの問題を修正したであろう時間までには、僕は既にこのゲームを解き終えていたから、この問題に困らされたとは思わない。プログラムを改良するのに時間を費やすモチベーションはほとんどないので、二度とプログラムを走らせたいと思わないだろうし、たとえもし僕がルーカスアーツ社にパッチを送ることができたとしても、バグフィックス版制作に着手できるようになる前には、他の大部分はゲームを解き終えていただろう。ゲーム産業はペースが速いので、最初のタイトルを出荷する前にはもう、開発者は次のプロジェクトに取り組んでいて忙しいものである。既に歴史の一コマになったものを向上させても意味はない。

「魔法のおなべ」において、エリック・レイモンドはオープンソース製品から金儲けをするのが実現可能なたくさんのモデルを提案している。その中の二三は、もしかするとゲームにも関連するかもしれないが、ほとんどは関連しない。ある目的において、オンライン・マルチプレイヤー・サービスを売りこむ一手段として、フリーのゲームを利用するのは可能かもしれないが、今のところこれは少数の特定ジャンル(例:ウルティマ・オンライン)にしか適合せず、クライアント・ソフトウェアにも課金するのでもなければ、潜在的な収益では開発にかかるコストをカバーしそうにない。任天堂やセガやソニーが、ゲームを売るために、ハードウェアを既に実質的にはただで与えたも同然である環境下においては、ハードウェアを売るためにフリーのゲームを利用することはできない。ブランドの認知度を伸ばすことができるかもしれないが、ほとんどの業者にとってそれが大問題とはいえ、主力製品がフリーなゲームの後援のもとで売られる他の製品ではなく、続編ゲームの連続から構成されるのでは、認知度が直接利益に結びつきはしない。ハードコアなゲーマーの中には、これがうまくいくと考えたがる者もいるが、一般社会に関して言えば、ゲームはポップ・ミュージックや映画文化を真似ていて、その反対方向の影響はない (Lara Croft(訳注:「トゥームレイダー」の主人公キャラクター)にもかかわらず:-)

よって現状は厳しい。共同制作による、追加型の開発プロセスは、単発の販売指向の製品にはあまりうまく作用せず、営利会社は、開発にかかる間接費を継続しなければ、ソースコードをフリーにすることから得るものは何もない。これを考慮すると、基礎技術が実はゲームそのものとはかなり違ったものであることをだれもが認識したときのみに、オープンソースがゲームと関連してくるのだと思う。


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初出公開: 2000年03月26日、 最終更新日: 2001年04月30日
著者: Shawn Hargreaves
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)