結婚を明るく語り合えない歳になってしまった
yomoyomo(技術者の端くれ、以下Y)と海坊主(医者の卵、以下海)の与太話。2000年8月5日長崎の居酒屋「魚民」にて。
Y:とんちゃん[註1]の結婚式のためにこうして長崎に来ているわけだけど、どうですか、二十歳ぐらいのとき、自分が何歳ぐらいで結婚したいと思っていた?
海:そうね、27、8だね
Y:正に今ごろ、というわけだ。でも結婚にも準備期間はいるわけで、となると俺達はそれは無理、ということになるね。
海:いや! そうとも限らない。恋愛は時間じゃない、と思うね最近。長く付き合って別れていくカップルを見るとさ。
Y:君はどうだった?
海:まあ、俺は長かった・・・といえば長かったけど、結婚、というのは現実的ではなかったね。
Y:まあ、とんちゃんの場合結果的には高校の同級生と結婚するわけだけどこれは珍しいね。まあ、普通は就職した後に合コンとかで知り合って・・・
海:君の場合、職場に女の人がいないというのが問題じゃないか?
Y:いや、俺そういうの好きじゃない。どっちにしろ職場にそういうの持ち込みたくない。
海:いやいや、職場の女の人にアプローチする云々じゃなくて、とにかく女の人がいるというだけで気分が違うじゃない。例えば高校のときさ、二年生のとき俺男子クラスでさ、あれイヤだったもん。
Y:ああ、言いたいことは分かるよ。
海:打ち上げをやるのだってさ、男だけで行くのと、女の子もいるのとじゃね。
Y:気分的に華やぐものがあるわな。まあ、これは男性からの一方的な見方で、女性はまた別の見方があるだろうけど。でもどうよ、高校大学と来て、色々女性との付き合いも覚えて、結婚観とか変わりましたか?
海:・・・変わらんね。というか誰を選ぶかというのがものすごい選択なわけじゃない。どっちが死ぬ瞬間とかまで行きつくわけよ。安易には決められない。
Y:でもさ、そこまで考えてしまうところが男性ならではのロマンチズムというか、間抜けさだね。今では離婚というのも珍しくはないわけで・・・
海:いや、俺は離婚を肯定するような見方というのは・・・駄目なのね。
Y:それは分かるよ。一生愛したいとは思うよね。
海:両親なんか見てるとさ、話していて腹立つことが多いのだけどさ、家族としてやってきたわけでね、それだけですごいじゃないかとも思うよ。
Y:自分の父親と母親を見ると、よくやってきたなとは思うね。俺の両親の場合、結婚して四十年ぐらいになるのだから、それはすごいとは思う。でも、その世代って昔の価値観に依りかかっていたところはあるね。
海:自分の場合、考え方が違う、価値観が違うというので相手を切り捨てるわけにはいかないからね。どこまで相手を赦せるか、尊重できるかということだと思うよ。
Y:まあ、相性というのは当然あるだろうけど、君が具体的に結婚相手に求めるものって何だい?
海:たまに会って飲んで話したりするだけの女友達だったら何人かいるわけだけどさ・・・最近では女性にエロスを求めているのかな、って思ったりする。
Y:(絶句)・・・何を今さら! あたりめーだろ。
海:まあ、そういうのをはっきり説明できないから悩むわけよ。あとね、今はそういうのがすごく面倒くさいというのがあってね・・・恋愛を温める時間が要るわけだけどさ、温めたくないみたいな。
Y:それはあるな! 確かに面倒、ってのはあるな。もういいよ、みたいな。今の私生活に満足しているわけでもないのにね。僕の場合は今仕事が充実してないから、そういうのが尚更楽しめないというのがある。
海:なるほどね。
Y:実はね、今年の二月に女性を紹介されたのだけどね。その当時仕事がアレ[註2]でね、とてもじゃないけど楽しめなかったし、そういう気持ちにはなれなかった。で、結果としてうまくはいかなかった。
海:でもさ、相手のこと結構いいって思ってたんじゃないの。
Y:うん、だから尚更自分がイヤになったよ。はっきりいってこんな良い女性を紹介されることなんてもうないと思う。それが分かっていたのだけどね、僕自身楽しめなかった。まあ、バカだね。確かに君が言うように、今は面倒、といった気持ちも底にあったのだと思うけど。
海:自分の器というのもあるけど・・・今は俺は夏休みで時間はあるけど、そうでないときは実習で大変でね、自分がやりたくてやっていることだからそっちに注力したいという。
Y:それが一番だよ。君と僕とは正反対なんだね。君は本業が充実しているからそういう気分になれず、僕は本業がうまくいかないからそういう気分になれない。面白いね。ところでさ、とんちゃんの場合セックスの相性が非常によかったみたいなのだけど・・・
海:それはやはり重要だろうよ。
Y:「僕は結婚するまでセックスしないよ」[註3]なんて言っていた五年前の君に聞かせてやりたいセリフだな!
海:ははは、あと結婚相手に求めるものに話を戻すと、俺は専業主婦ってのはイヤだね。
Y:なるほど。結婚しても働いていてほしいわけだ。俺も専業主婦ってのは避けたいね。
海:家庭にいれたい、家にいてほしいというのはない。全く時間帯が合わない仕事ってのは困るけど。女性に家事を全部押し付けるのも無茶な話だしね。
Y:雑誌の記事(SPA の「ブレイク・ワイフ」とか)見ると暗澹たる気持ちになるからね。お受験なんかにハマるのも、それしか自己実現手段がないんだから仕方がないんだよ。まあ、僕の場合は子どもを欲しくない、と思っている人だから・・・そういうことを考えている間は結婚できんのだろうが。君子どもはどうだい?
海:子どもは好きじゃないけど、自分の子どもだったらかわいいと思うよ。
Y:みんなそういうんだよな。
海:何と言うかさ、ペットもさ、みんな犬が好きだと思ってたら大間違いだぞ! と思うわけ。
Y:(絶句)いいんだけどさ、何で子どもの話でペットが出てくるんだ?
海:つまり、みんな子どものことが好きで、女性は子どもを産みたいと思っていて、子どもはかわいいんだ、みたいな価値観を押し付けるのは間違いだということ。
Y:なるほど、そりゃそうだ。
海:でね、話は変わるけど、自分の親が寝たきりになったりボケ入ったらどうするよ、というのがあるわけ。自分達家族で面倒を看るとなった場合、それは奥さんが看るということになってしまうんだな。もしくは施設に預けるか。
Y:有吉佐和子が「恍惚の人」を書いたときから、認識は大分変わったんだろうけど、対抗する手段というのは未だに余り変わってないんだよな。
海:施設に預けるにしてもね、ああいったとこで自分の親がぞんざいに扱われているのを見ると我慢ならないらしいしね。今までだったらそれは嫁の役割だったわけだ。
Y:つまり古い日本社会では女性が搾取の対象となって、それで何とか丸く収まっていたんだろう。そういう風に教え込んで女性も疑問を持たなければそれで済んだわけ。恨みに思うこともあるだろうけど、悲しいことに人間は100%死ぬわけで、人一人の怨念は有限だから。
海:これは理想論だけど、やはり俺自身は施設に預けるしかないと思う。それは奥さんになる人に押し付けるわけにはいかないよ。それぞれがそれぞれの親を大切にして、介護のために仕事を休めるようになればいいのだろうけど。
Y:これはある学者が言っていたのだけど、「人間はもはや搾取の対象ですらなくなった」[註4]というのがあってね。かつてはさっき言ったように結婚制度における女性とか、労働者とかが搾取の対象になって物事を(一部の人間から見て)うまく進めていたのだけど、今では社会システムの中で人間は搾取の対象すらなくてただ排除されてしまうものになったわけだ。人間あってのシステムのはずなのに。会社にしたって正社員なんかいらない、とかね。で、何もかもがパッケージング化されて、最終的に何が残るのかというと、高齢化社会になって人間が死ぬのにまつわる苦労・あがき、あれだけしか重みのあるものが残らなくなるのではないかという気がする。
海:うーん、そうね。
Y:それを誰が落とし前つけるんだ、というね。それも一方から見ればビジネスになるんだろうけどさ。コムスンみたいにさ。
海:でもあれすげー赤字らしいね。でもさ、俺も老人介護関係の実習やったことあるけど、これ半端じゃないなと思うわけよ。
ここでベンジャミン「魚民」に到着。
Y:ああ、今結婚について対談をやっているのだけど、どうだい君も。
ベンジャミン:やめろぅ!(テープを止める)
[註1] yomoyomo、海坊主、ベンジャミンの高校の同級生。高校三年のときは四人とも同じクラスで、彼の結婚披露宴のため対談者は長崎に集結していた。対談の翌日開かれた披露宴は、出席者250人の和太鼓あり津軽三味線あり新婦が歌うハッピーサマーウェディングありというとんでもなく素晴らしいものものだった。披露宴嫌いの僕が書くのだから間違いない。いつか文章にしたいくらいだ。
[註2] 今なおアレである。困ったものだ。何とか打開しないと。
[註3] そういうことをほざいていた奴よりも、貧しいセックスライフを送るというのは確かに虚しいものだ。
[註4] 確か学者さんの言葉だったと思いますが、誰の言葉か正確に思い出せません。お分かりの方はメールでご一報下さい。こんな具合ですから、引用の仕方は恐らく間違っていると思います。