夏は終わった
ベンジャミン(以下ベ)と yomoyomo(以下Y)の与太話。2016年8月15日、長崎の某居酒屋にて。
Y:前回の対談から3ヶ月半経ったわけですね。予定通りではないんだけど……本当は8月くらいに――
ベ:大体これさ、いつくらいに公表される予定なの?
Y:9月かな……自分が今唯一やっている WirelessWire の連載が、予定では7月末には49回、8月末には50回、最短ではそれで終わりになると思ったんですよ。ところが、49回の原稿がとにかく書けなくてね。自分の時間がなくなるというか――
ベ:今まで時間があったのが不思議だね
Y:そうなんだけど、今までどれだけ才能のない人間が時間を浪費してきたかということでもあって……夏休みに入っても書けなくて、しまいには長崎に帰る日の朝になんとか書き上げて送ったんだけど、その頃には WirelessWire のほうも夏休みに入っていて、休み明けの公開になるという。正直書きたい文章はいくつかあるのだけど、今回みたいに書く時間の問題とか、もう自分の筆力がはっきり低下している問題があるので、あと一回で50回なので、それで終わりになるんだろう。そして、その後この対談を公開して、締めの文章を公開して、10月くらいに終わりになるんじゃないですかね
ベ:ふうん、それで爆竹を BGM に対談やると
Y:今日ちょうど8月15日、長崎は精霊流しの日なんで、爆竹の音がすさまじくうるさいんですね
ベ:長崎の夏は、今日で終わりです……あと数時間もすると、長崎の夏は終わります
Y:そうそう、子供の頃、夏休みって精霊流しが終わると、夏も終わりだ、いい加減ほったらかしていた宿題をやらなきゃ、となってたね
ベ:お前、そんな早くから宿題やってたの?
Y:ちょっと待って、話が分からない。普通7月後半から夏休みに入るよね? 最初は気も張っていて、早いペースを宿題をこなしていくんだけど……8月に入ると溶けちゃって、それが正気に戻るのが8月15日過ぎで、ああ、残りの宿題をやらな、となるわけだろ
ベ:小学生の頃からそんなだったんだ。君の夏休みの終わりは8月15日から始まってたのか? 早いねぇ
Y:早いことはないだろ
ベ:夏休みの終わりで、宿題を始めるのは8月30日からだよ
Y:そんなこと言ってるからお前は……
ベ:40日夏休みがあって、宿題をやるのは2日あれば終わるだろ
Y:それで終わらんだろ!
ベ:君は夏休みを38日間満喫してなかったのかね、もったいない
Y:満喫はいいんだけど、2日間では宿題終わらんやろ
ベ:終わらせるんだよ。時には家族の手も借りてね
Y:ああ、それはあるね。昔、夏休みの自由研究を従姉妹の今日子さんにやらせた記憶がある
ベ:今は便利だよね。調べれば、すぐにネットで過去の天気情報も出る
Y:ああ、絵日記を書くのに必要なヤツか
ベ:最終日の31日は、朝の4時ころまで宿題の残りをやってたな……まあ9月1日の朝だけどな
Y:ひどいね。そういえば夏休みと言えば、長崎の人間が故郷を出て、最初の夏にショックを受けることが二つあって、ひとつは(長崎に原爆が投下された)8月9日が登校日でないこと、もうひとつはブラックモンブランが全国区のアイスじゃないんだと驚くという
ベ:九州あるあるか。言っとくけど、オレはミルクック好きでブラックモンブランのスペシャリストだから。両方大好きだったなあ
Y:……なんですか? スペシャリストって
ベ:いったいオレが何回500円の当たりくじをひいたと思ってんだよ。10回以上は当ててるね(得意顔)
Y:そういう、どうでもいい自慢をされても……しかし、こうして喋っていても、爆竹の音がうるさいねぇ
ベ:爆竹とともに長崎の夏は終わるんです。夏の夕暮れ時にヒグラシが鳴くのを聞くのが好きでした(感傷に浸っている)
Y:夏が終わって、やがて年末には SMAP が解散して、YAMDAS Project が終了するんですね
ベ:いろいろ終わりだね
Y:経済効果は、SMAP の一億分の一程度ですけど
ベ:わたしたちの関係も終わるのです
Y:そうですね。対談のパートナーとして終わって
ベ:肩の荷が下ります
Y:……って、全然思ってないだろ?
ベ:心残りは……たくさんあります。こんなことになって、申し訳…ありませんでした…
Y:なんかどこかで見たことあるような三点リーダの使い方だが
ベ:ホントに止めるの?
Y:そうです……止めるといってもサイトは残すし、更新をしない、商業媒体から依頼があっても請けないという。私生活で何か大きな変化がない限りはね。アナタからも随分言われたんで、今年から週二回だったブログの更新をずっと週一にしていて、それは停止するのを見越してのことで
ベ:フェードアウトでもいいけど、自分に合った更新ペースを守ればいいだけじゃないの
Y:なんだよ、お前、あれだけ止めろと言ってたくせに、何日和ってんだよ
ベ:止めろとは言ってなくて、頻度を落としてノンビリやればと――
Y:うわっ! お前、今更「止めろとは言ってない」とか言い出すわけ?
ベ:いや、止めろとも言った。止められないんなら頻度を落とせばと言ってた
Y:そうか? もっとハードコアだったぞ。「止めちまえよ!」って
ベ:「止めちまえ!!」ってのもずっと言ってた(笑)
Y:お前(笑)
ベ:止められないのなら、頻度を減らせばと。更新しないといけないという強迫観念に駆られているように見えたから
Y:いや、できるから。更新しようと思えば、自分の基準を満たしたエントリをいつでも更新できてしまえたから。でも、生活が変わって、それができなくなった。無理してるわけじゃなくて、今は週一でもいっぱいいっぱい
ベ:まあ、止めたことがストレスにならないならいいんじゃね
Y:ずっと書きたいと思っていて書けなかった文章がいくつかあって。それを書けずに終わるのは心残りではある。色川武大の『狂人日記』についての文章とか、米長邦雄についての「美しき敗者 米長邦雄」とか
ベ:サイトは残すけど、更新はもうしない?
Y:自分の書いたものが電子書籍になるとか、何か告知があれば書くけどね。定期的に更新することはなくなる。本を読んだら読書記録を書き、映画を観たら感想を書くとかそういうのね
ベ:ああ……
Y:おい、なんでそれを聞いてキミが驚いたような顔をするんだよ。今更
ベ:ウェブ日記みたいなのに変わってくかと思ってた
Y:お前、何、今更日和ってんだよ。全部止めちまえよ! って言ってたくせに
ベ:いや、ツイッターと商業媒体に書くのは止めろとは言ってた。要はストレスになるのを止めろと言ってたわけで
Y:書く時間がなくなって、自分が書くもののクオリティも維持するのが本当に難しくなってるわけで。書く力も落ちている
ベ:最前線から後退していったわけだ
Y:そういえば、以前キミから「お前は前から、俺は上から」と言われて、何のことかと思ったら、髪の毛の後退の話だったんだね。まぁ、何を言いたいかというと、キミもワタシも歳をとったということだよ
ベ:君のように前から来るのは難しいらしいね
Y:なんだそれは? 上から来るのはなんとかなるのか?
ベ:上からは、リアップでなんとかなる場合もあるらしい
Y:へぇー
ベ:俺はチャールズを目指す、君は……ルーニーだな
Y:植毛しかないのか俺には!
ベ:(笑)でも、長かったね
Y:17年ですから
ベ:ホント「止める止める詐欺」を17年だもんね(笑)
Y:お前、失礼だよね
ベ:わかってるよ、サイトを続けてきた期間だろ
Y:失礼な。1999年2月7日から続いているよ
ベ:その日にちを覚えてるのは君だけだけどな(笑)……目指せ20周年は叶わなかったか
Y:ツイッターとかのアカウントは残すから……でもね、今年に入ってから、意識して、炎上とか、筆禍の類には巻き込まれないように気をつけたのは確か。そういうので止めたと思われるのがイヤだからね
ベ:そうだね、えーっと、「ホームページ」じゃなくて「ウェブサイト」だっけ?
Y:(笑)そうそう、お前が「ホームページ作るの?」と言ったら、ワタシが「ホームページじゃなくてウェブサイトだ」と答えたとかいう話ね。それ見て、たつをさんだかがバカ受けしてたっけ
ベ:でも、今はスマホで環境が変わったよね
Y:今の新入社員とかスマホ世代だから。ワタシなんかからすると、スマホで卒論を書いたとか言われると信じられないよ。でもな……キミと対談するのもこれが最後かと思うとね、本当に――
ベ:いろいろ済まなかったね
Y:謝るの?
ベ:嫌な思いをさせて――
Y:でも、対談中、本気で険悪になって、一触即発までいったこともあった
ベ:全部俺が飲み込むんだけどね
Y:ほぉーっ(笑)
ベ:でも……想いは……(笑)
Y:何笑ってんだよ
ベ:思えば懐かしい話だね
Y:お前、また卒業式風にする必要はないからな
ベ:あれ、やったっけ?
Y:11年前にやったよ
ベ:「止める止める詐欺」からの方が長えじゃないかよ(笑)
Y:ひどいこと言うね、お前も。あのときの経緯は前回も喋ったから。でも、もうウェブも自分のような人間が活躍するような時代じゃなくなったのかと思うと……すごく寂しいわけだけど
ベ:時代に取り残されたわけだから、ツイッターで何にでも噛みつくようなヤツになればいいじゃん
Y:ああ、それだけはやりたくないね! でも、さっきも言ったけど、今年の春ぐらいから絶対炎上だけはすまいと心に誓ってね。人間関係でなんだかなと思うようなこともあったんだけど。まぁ、自分がターゲットというわけでないからよかったんだけど、「このバカ○○が」とか思うこともあるわけよ
ベ:ああ、それ、アレか? ○○○○のことか?
Y:いや、そうじゃないんだ。その人のことじゃない(笑)。その人とは何の接点もないから
ベ:あの人、ホント文才ないよな。あれで商業媒体に書けるのがすごいよね……あっ、こんなことばかり言ってると、張本みたいになっちゃう
Y:とにかく、何か揉め事に巻き込まれたりして、そのせいで終わるように思われるのはとても不本意なので、それだけは意識的に避けたよ
ベ:……こうやって君が必死に喋るのを聞いてると、俺は君の人生の中で、君の対面に一番多く座って飲んた男なんじゃないかと思うんだけどさ
Y:……言われてみれば、そうなんだねぇ……向かい合って一緒に飲んだ回数が一番多いのはキミなのか……ところで今回が対談の最終回ですが、泣かないんですか?(笑)
ベ:まぁ、ホントいろいろあったね
Y:(笑)そう言われるとこっちが泣きそうになるがな
ベ:まさか清原が逮捕されるとは
Y:そこかよ! 今回の Number だったかが、高校球児時代の清原を特集して、それがいいらしい。今年はね、すごい年やで。デヴィッド・ボウイが死んで、プリンスも死んで、天皇陛下が「お気持ち」を表明されて、SMAP が解散を発表して、それぞれ重みはいろいろなんですが、ひどい年ですよ。で、YAMDAS Project も終わり、と
ベ:それが一番重大事件だよ!(笑)
Y:笑ろとるやん。
ベ:もう俺の対談も終わるのか、と
Y:まだ言うか「俺の対談」て。というかさ、キミの対談と言うけどさ、キミがひたすらだらだら30分くらい喋った挙句、「あとまとめといて」とか言われて、殺意を抱いたことがあったぞ
ベ:そんなギスギスした心をもう持たなくていいんだよ
Y:使われなかった対談がいっぱいもあるからね。その音声ファイルを公開したいところです
ベ:それはやめときな、そいつは違法だぜ
Y:お前の音声がなんで不正アップロードになるんだよ(笑)。でも、こないだそういうボツ音声を久しぶりに聞き直してたら、冒頭キミが「はい、どうも! レディ・ガガです」と言い出して、パソコンの前で爆笑したのがあったな
ベ:ベタだなぁ
Y:まぁ、終わるというので思い出した話があって、一昨年だか、スティーヴン・コルベアというコメディアンがやってた「コルベア・レポート」というテレビ番組が終わったんだけど、その最終回の最後、コルベアがランディー・ニューマンのピアノにあわせて歌うわけですね。"We'll Meet Again"、「また会いましょう」という邦題があるけど、スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』観たことない?
ベ:観たことあるけどさあ……よくもまあそんなにすらすらとカタカナ言葉を喋れるもんだねえ……君が海外のミュージシャンや歌詞、監督や作品名を絶対に噛まないとこは色々な意味で尊敬してる……ああ、それでお前のサイト、カタカナばっかりなんだな
Y:書き起こしてるからカタカナであって、敢えてカタカナを喋っているわけではない。サイトに関しては IT 系なんだから、それは仕方ない
ベ:カタカナ多いんだもん。自分のことを「ワタシ」と書いたり
Y:ああ、それはね、自分のオリジナルかどうかは知らんが、自分の文章で一人称を書くときに、一番しっくりくるのがカタカナ三文字の「ワタシ」表記なんですね
ベ:(マイクに向かって)めんどくさいヤツでしょ?
Y:(笑)。話を戻すと、"We'll Meet Again" という曲をスタジオで大勢のゲストと一緒に歌うわけですよ。そこにはヘンリー・キッシンジャーとかポール・クルーグマンとか、ノーベル賞とった世界的な有名人がわんさかいるんですよ。ジョージ・ルーカスとか、マイケル・スタイプとか、アリアナ・ハフィントンとかが。それを見てワタシは思わず泣いてしまって。「また会いましょう」と歌ってるけど、当たり前だけど、それは絶対ないからなんだね。スティーヴン・コルベアが消えてしまうわけじゃない。しかし、もう二度と「コルベア・レポート」はないんだよ……それでは二人で「また会いましょう」歌いましょうか?
ベ:ああぁ、君の早口なカタカナがもう聞き取れないや…………その時が来ちまったんだな
Y:何がだよ
ベ:ベンジャミンを創り出していた yomoyomo の中の根暗な奴と、陰湿な奴と、陰険な奴、もうすぐひとつになって俺はいなくなるんだよ……これまで俺の対談を読んでくれたみんな、マタ…アエルカナ、ア・リ・ガ…………
Y:そんなオチはいらんよ
ベ:(マイクに向かって)ああ、やっとこのめんどくさい対談から解放されるぜ!