著者: Peter Seebach
日本語訳: yomoyomo
以下の文章は、Peter Seebach による The Hacker FAQ の日本語訳である(10月30日:バージョン 0.05 改版に追従)。
「Hacker FAQ」と題されているが、ハッカーワナビーのための FAQ ではなく、飽くまでハッカーの習性が理解できない管理職を想定されたものであり(その旨を邦題に付け加えた)、FAQ というよりも殆どお悩み相談的内容になっているところに、洋の東西を問わず管理職の悲哀を感じさせる。
また、同じ著者による本文の続編となる The Manager FAQ(日本語訳:ハッカーのための管理職 FAQ)や、長松昭氏による、本文書のシニカルかつ非常に愉快なパロディである、ハッカーのための管理職 FAQ がありますのでそちらもご一読ください。
本翻訳文書については、以下の方々にご教示を頂きました。ありがとうございました。
以下のリストは、ハッカー・コミュニティに属した経験のない人がハッカーを雇おうとする際に常に頭をもたげる問題をある程度カバーしようとする試みである。この FAQ は自由な配布を意図しているし、好きなように複製してよい。これは初期の改訂版である。もしこの FAQ を修正したい、もしくは出版物による配布をしたい場合は、どうか作者に連絡していただきたい。作者は seebs@plethora.net である。正式版(0.05 版)があるサイトは、"http://www.plethora.net/~seebs/faqs/hacker.html" である。
この情報が有益だと気付かれたら、どうか作者に形だけでも寄付することを考えていただきたい。詳細は電子メールで。
免責事項: 作者はハッカーである。バイアスがかかるのは避けられない。
copyright 1995, 1996, 1998, 1999 Peter Seebach 変更を加えない限り配布は許可される。
0.05版:1999年9月28日最終更新
いえ。ハッカーというのは、メディアの報道に反して、コンピュータに侵入する人間のことではありません。そうした手合はクラッカーです。ハッカーはコンピュータと戯れる人達です。あなたが雇っているハッカーは時折安全対策を出し抜いたりしますが、これに悪意はないのです。セキュリティがそれなりのものである場合に特にそうしたがるわけで、これはすなわち好奇心ゆえなのです。
仕事に依ります。ハッカーはある仕事においては非ハッカーよりも劇的に有能たりえるし、そうでなければ劇的に劣ってしまいます。ハッカーが特に得意とする仕事は、
ハッカーが特に不得手とする仕事は、
大体において、迅速さや予期せぬ変化、傑出した技能を必要とし、余り繰り返しのない仕事というのが、ハッカーが秀でるところです。繰り返しが多い単調な仕事は優れたハッカーを無駄にし、あなたが雇っているハッカーを退屈させ欲求不満にさせるでしょう。退屈で欲求不満ではよく働いてはくれませんよね。
ありがたいことに、ハッカーを彼が特に好むところに置いてやれば、しばしば「平均的な」労働者のおよそ5倍から10倍もの成績を上げるのを目の当たりにするでしょう。これは首尾一貫しておらず、毎度それを期待すべきではないのですが、往々にして起きることです。これは特に困難な仕事を与えたときに最も目にします。
猫を飼うのと同じ要領です。いくらか困惑するでしょう。彼らは他の大部分の労働者と毛色が異なるわけですから。でも心配無用! あなたのところのハッカーは、もし求められたら、問題への解を進んで提案してくれるでしょう。多くのハッカーはほとんど自己管理がなってます。
本当に「10倍」と申しました。そうです、私は真剣です。好調時のハッカーなら、二三ヶ月で、小規模な開発グループ(7、8人の)が団結しながらも一年以上苦労しているものを作りうるのです。人によりますから、あなたのところのハッカーがそこまですごいかどうかはわかりませんが。
IBM はかつて、特定のプログラマーが他の労働者の100倍、もしくはそれ以上の生産性を示したことを報告しました。この種のことが起こるのです。
今のとこまだです。当面は、「New Hacker's Dictionary」(下記参照、「ジャーゴン・ファイル」として知られている)を、特にアペンディクスをチェックしてください。全体にハッカーの思考法の説明と細目でいっぱいです。
よくあることです。あなたの雇ったハッカーは、ハッカーと仲良くやれる人間を見つけてないのかもしれません。あなたとしては在宅勤務やフレックス勤務(夜型への移行)を提案することを考えてみてはどうでしょう。そうしてみれば生産性が向上するかもしれません。さもなくば他のハッカーを雇うことですね。
あなたのところのハッカーは団体における風采の重要性をとてもよく理解してますよ。つまりそれが仕事の助けにはならないということをです。IBM、フォード、そしてマイクロソフトもみんな、従業員が望む服装をさせるのが仕事にもよいことを認識してますよ。あなたのところのハッカーはその人にとって気持ちのよい服装をしているのです。特別な機会にはいくらかドレスアップするよう礼儀正しく要求するのはもっともなことで、殆どのハッカーは丁重に求められれば、快活に(意図せざる)穴のあいてない服を着てくれます。
ハッカーは肩書きに敬意を払いません。ハッカーというのは、マネージメントがエンジニアリングの「上位」にくるなんて思わないのです。つまり、彼らにとってマネージメントというのはある役目を果たすことであって、エンジニアリングもまたしかりです。彼らはあたかもマネージメントが彼らの下位にあるかのような口振りをすることも多分頻繁にあるかもしれませんが、これは実際公平だといえます。つまり、あなたの問いによると、あなたはエンジニアリングがあなたの下位にあるかのようにほのめかしてるからです。ハッカーを対等な存在として扱うことです。そうしたら、彼女も恐らくはあなたを対等な存在として扱うでしょう。全く光栄なことではないですか!
あなたの雇っているハッカーをわきに連れて行き、現在の仕事のおかしいところを詳しいところまで助言を求めるのです。何か問題があるのかもしれません。大抵の場合うまくいっているという事実に騙されてはいけません。あなたのとこのハッカーは、その問題が全てを破綻させてしまうという事実が気になっているのかもしれません。彼はパフォーマンス、信頼性、そして他の主要点について劇的に向上させる改良点を指摘できるかもしれません。これは調べてみる価値があります。
あなたはあなたのとこのハッカーに説得してもう少し礼儀正しくするようにさせることができるかもしれませんが、もし彼と他の従業員との間で大きな見解の相違があるようならば、あなたが現在抱えるスタッフの一人、もしくはそれ以上が無能である、ということも大いにありうることです。勿論のこと、ハッカーは他の多くの人達とは能力の基準が違うことに注意してください(「基準が違う」を「基準がより高い」と読みかえてもよいです)。
ハッカー、作家、そして画家は皆「浸透」のために費やす時間がいくらか必要で、彼らの潜在意識の働きを問題に向けるために何か他のことをしているのです。あなたのとこのハッカーは多分何か困難に突き当たっているのでしょう。心配には及びません。
あなたのとこのハッカーは、多分一人で、ビッグ・プロジェクトに従事していて、それは始まったばかり、でよろしいですか? 彼女は多分その全容をあらかじめ理解しようとしているのです。彼女に進捗を尋ねてみてください。もし彼女が次々とセンテンスを話しだすが、「いや、待って・・・」とか「ちぇっ、上手くいかないぞ」といった言葉で中断するようなら、順調です。
いいえ、あなたのとこのハッカーは色々なやり方で気晴らしをし、物事を考える必要があるのです。気晴らしをしないより、した方がより生産的であるでしょう。あなたのとこのハッカーは仕事を楽しんでます。合理的にかつ迅速に仕事がなされるかについて心配することはありません。
その職責を果たす必要があるのですか? 自分は問題を解けるが他の誰もそれを解けない場合、問題を解くことに抵抗できるハッカーはほとんどいません。この場合、あなたのとこのハッカーは仕事をうまくやってますか? もしそうなら、そうした行動を(あなたへの)無償のサービス、チップと考えてみて下さい。それは協定にはないかもしれないが、いくばかりか助力にはなるでしょう。
幸せそうですね。多分以下の三つのいずれかなのでしょう:
以上の要素のいずれかがあてはまるのかもしれません。全部があてはまるのかもしれません。一般に、もし仕事にやりがいがあり、うまくいっているなら、そのプロセスについて心配することはありません。ハッカーが書いた本にクレジットが与えられるようかけあってみては如何でしょう。
あなたは本当に、既に何かをやってしまった労働者より、現在うまくやっている労働者を求めているのですか? エゴなんて職場で重視するものではないでしょう。もし連中がうまくできてないのなら、連中ができる仕事を割り当てることです。
素晴らしい! 多くのハッカーが自分の仕事と引き換えに受けたいと思うものの幾つかを以下に挙げます。
必ずしも順番通りではありません。4番目の項目(理解)が最も難しいでしょう。次回あなたのとこのハッカーが x-trek をやって遊んでいるのを見かけたときに、ハッカーが成し遂げたいい仕事のことを思い出そうとしてください。仕事にぐちをこぼすよりは、うまくいった仕事へのボーナスとして(非公式に)与えられる「臨時収入」とみなすことです。心配御無用! ハッカーというものは仕事をやらなければすぐに退屈してしまうものですから。
それはいけません。30年に渡る心理学の調査によると、処罰では長期的には望ましい効果がでません。あなたのとこのハッカーは実験用ネズミではないのです(あまつさえ彼が実験用ネズミであるとしても、処罰ではうまくいかないでしょう。少なくとも、心理調査が有効な実験用ネズミの類だったとしたら)。もしあなたがそのハッカーのすることが気に食わないなら、あなたの考えを伝えることです。振る舞いについて、あなたを悩ませていることを説明するのです。
議論のための準備をすることです。あなたのとこのハッカーは道理をわきまえた存在であって、理由があったのでしょうね。彼を余りにも性急にこっぴどくしからないことです。ちゃんとした理由があったことが分かるかもしれません。
もしあなたの方が間違っていたら、素直に謝りましょう。もしあなたのとこのハッカーが非を認めても、謝罪を要求しないように。ハッカーにおいては、非を認めることは、大抵において謝罪なのです。
昇進により、他人の仕事の説明を聞くために費やす時間が増え、コンピュータと戯れる時間が減るということが往々にして起こります。あなたのとこのハッカーは現在の仕事を楽しんでいるのです。つまり、もしあなたが報酬を申し出るなら、肩書きにおける昇進、可能な給料の引き上げ、そしてちょっとした賛辞を考慮することです。あなたが彼女の業績に満足していることを確かに知らしめること、それこそが彼女が求めるものなのです。
貴社の規定はおかしいですよ。フリーランスのコンサルティングをやって、時給 200 ドル(時にはそれ以上)も稼げるハッカーもいます。あなたのとこのハッカーに、手当て付きの終身のコンサルティングの地位を申し出てもよいでしょうし、それができないのなら抜け道を探すことです。さもなければ、何か役得を見つけてやることですね。多くのハッカーは、彼らのお気に入りのメーカー製のハードウェアの割引を、印象的な昇給として喜んで受け入れるでしょう。
その部署の他のスタッフに、そのハッカーがやっている仕事や、それについての感想を尋ねなさい。恐らく、あなたのとこのハッカーは週に二三時間、他だったら高額な外部のコンサルタントが必要な、難解な質問に答えるのに費やしているのでしょう。あなたのとこのハッカーは、時間を切りつめて、オフィスまわりでもう一人分の仕事に値する職責を果たしているのかもしれません。給料分の価値のないハッカーなどごく少数です。彼らは困難な仕事を成し遂げることを楽しみ、労働者の効率を改善しているのです。
あなたのとこのハッカーは techie(技術オタク)なんです。TNHD(The New Hacker's Dictionary)のコピーをピックアップすれば間違いないでしょう。http://www.catb.org/~esr/jargon(最後に私がチェックしたときには)か、品揃えのよい本屋で見つかります。そうした参考文献を理解するのが困難なら、あなたのとこのハッカーに、コピーを持ってないかとか、もし良ければ用語を説明してくれないかなと尋ねてみましょう。殆どのハッカーは専門用語を説明するのをいとわないです。恩着せがましい態度をとられるかもしれません。でもそれは彼女があなたを侮辱しようと思っているわけではないのです。あなたがその単語を知らなければ、彼女はまずそれを説明するためにレベルを落として話さなければならないのですから。
当然ながらそれは難しい単語の集まりです。なにしろ沢山ありますし、それらの単語の用法はぱっと聞いた印象よりずっとより厳密です。ハッカーは言語ゲームが好きなんです。
[英語があなたのとこのハッカーのネイティブな言語でないこともまたありえますし、あなた自身がそうでないかもしれません。その場合は上記の説明の English を適当な言語に置き換えて読んで下さい。]
あなたのとこのハッカーは、まだその問題の困難さの程度を解析しきれていません。大部分の労働者と違い、ハッカーは問題を確かに理解したと納得できるまで、見積もりを出すことに大きな抵抗を示すでしょう。時には、理解しようとしている間に問題を解いてしまうことさえありえます。
優秀な技術者は、決して95%以上の確信を持ちません。そして大抵のハッカーは優秀な技術者です。もしあなたが、無理に見積もり通りにやらせたりはしないと言えば(しかも本気で!)、大抵の場合は、おおまかな見積もりを出してくれるんじゃないでしょうか。この見積もりはえらく高く思えたり、あるいはえらく低く思えるかもしれません。実際、その通りなのかもしれません。結局それは見積もりでしかないんですから。でもそれがあなたの欲しかったものでしょ。
もしあなたが勇敢なら、説明を求めてみては。そうしたものの殆どは説明可能です。しばらくかかるかもしれないが、おもしろさが分かるかもしれません。
コンピュータがそうするからです。あなたならそれを避けることもできますが、コンピュータは0から数え始めます。大部分のハッカーもまた、くせになっているのです。