内容的には Movable Type の作者夫妻のインタビューやモブログカンファレンスのレポートなど2003年におけるトピック、おなじみの blog ツール紹介記事、関係者による座談会、そして今後の展開を予測する記事といったものからなっているが、全般的に著者達が他の媒体で発表済みの文章もいくつか含まれる。それが悪いというのではない。例えば平田大治さんによる TypePad 紹介記事は既に iNTERNET MAGAZINE 2003年11月号で読んだものだし、加野瀬未友さんのツール紹介記事は MyProfile などの記述を除けば、大体Weblog/blog/ブログ ツールリストである。しかし、これらはやはりこうしたムックに欠かせなかったものである。本書をとっかかりにする人もそれなりにいるのだろうし。そうした意味で、本書の主要な読者層であろう人達への要件はちゃんと満たしていると思う。
ただやはりワタシのような立場からすれば、これまで読めなかった話の方が面白いわけで、例えば今年7月のモブログカンファレンスなど、参加者による優れた考察はあったが、ジャーナリストによるちゃんとしたレポートが意外に読めなかったのでありがたかった。「ビジネスとモブログの相性はばっちり?」などという実際の記事内容と乖離した煽り文句やソニーの研究所の所長さんのインタビューも含め空疎だったけどね。逆に、みらのさんによる monex 証券の事例は、実際には Movable Type 導入事例ではないものの、興味深く読むことができた。あとすごく惜しいと思ったのは、高間剛典さんによるメディア論、4ページでは全然足りない。これがもっと長尺のしっかりした論文になっていたら、本書はもっとコクのあるものになっていたと思う。
個人的には NewsHandler 開発者の和田さんと Myblog Japan の内藤裕紀さんのインタビューがよかった。後者については、例の blog 祭り運営絡みのゴタゴタがなければもっと素直に読めたのだろうが。和田さんの発言は、僕の考えと近いので以下長めに引用しておく。こんな地に足のついた人達ばかりならよいのだけど。
ブログって日々更新されるテキスト系サイトってことなので僕は日記ツールと同じだと思っています。トラックバックがなくてもRSS出してなくてもブログだと思うんです。今の状況は言葉が先走ってるだけなんじゃないでしょうか。
でもはやっているからはじめたってユーザーさんも多いと思うんですが、それはそれでいいと思うんです。
それでRSSの流通量が増えればメタサービスもおもしろいものが増えると思うし、今の状況は歓迎です。
ブログという言葉が定着するかどうかはわからないですが、こういうスタイルは今までもあったしこれからも残りますよね。
本書ならでは、となると三つ収められている座談会記事なのだが、2ちゃんねる関係者による座談会は、「外から見てて気持ち悪いな、と思っているだけで。キモイですね」「ビットバレーとかに、なんか似てますね。だから気持ち悪いんかな」「結局ネタがないのに書いているでしょ」という深水英一郎さんの投げやりな発言が痛快だったし、氏がそのように考えているとは思っていなかったので意外でもあった。
あと編集長対談は、さすが言葉を扱う人達によるものだけあって、それぞれの問題意識が分かる内容の濃いものだった。その中には、ワタシがこれまであまり意識していなかったものもいくつかあり、ためになった。
しかし、それと比べて blog ツール開発者の座談会は、みんな短い言葉で語りきっているものだから、全編符丁だらけという感じで、内容は面白いのだけど、これでどこまで読者に伝わるのだろうか。他二つの座談会とそのあたり差は歴然としている。編集者がしっかりモデレートできなかったのだろう。
最後に、blog とビジネスという観点では、増田真樹さんによる「緊急レポート」になるのだろうが、ブログビジネスに関する知見については、例えばばるぼらさんの「できるウェブログ」でも同趣旨のものが読めたし、ワタシも『ウェブログ・ハンドブック』の訳者あとがきに書いたが、これは8月に書いた文章が未だ日の目を見ていないから悲しくて挙げてみただけである。
興味深かったのはソーシャルソフトウェアのくだりだが、ここに限らず全編にわたり会社名、人名の大半がイニシャルになっているのは、一体何の意味があるのだろう。例えばその手のギョーカイの方々など、このイニシャルが符丁となってほくそえむ構図でもあるのかもしれないが、一般的なネット利用者にはそんなのまったくどうでもいいことである。大した内容じゃないのだから、前述のソーシャルソフトウェアのところのように社内の話じゃないなら社名ぐらいもっと出せるはずだし、人名にしても小ざかしいイニシャル表記など止めて代わりにその人の担当部署なり役職なり少しでも意味のある情報を入れろと言いたい。
あとよく分からなかったのは以下のくだり。
3〜5年前に比べれば、今の日本は「個人サイト不況」「ネチズン不況」である。インターネットユーザーを盛り上げるには、サイト作りに参加できる魅力のあるツールは不可欠で、かつコミュニケーションの要素があるブログは、この不況感を払拭する有力なツールが必要と判断したのだ。(後略)
具体的な時間軸を出している以上、「3〜5年前」と現在の間に明確な差異が存在するのだろうが、正直当方にはそれがよく分からない。ワタシが自分のサイトを始めたのが凡そ四年半前なのだが、それから現在に至るまで、ネットユーザ全般にしろ、ウェブページ作成者にしろ増えたという話は聞いても、減ったとか不況などという話は聞いたことがない。比較対象が「3〜5年前」なのだから、少し前に話題になったテキストサイトの衰退の話とはまったく違うことになる。このあたりの前提をもっとちゃんと書いてくれたら、面白い論点になっただろうと思うのだけど…そもそもこれってどこまで共有されている認識なんざんしょ。
しかし、それに続く文章は何なんだろう。後半部の述語は「判断した」だとして、主語は普通に読めば「ブログ」になると思うのだが…いつから「ブログ」は「判断」できるようになったんだ?
申し訳ないが、ワタシは献本いただいておいて、平気で以上のようなことが書ける冷血漢なのである。いろいろ書いたが、季刊は難しいとしても、半年に一度のペースでも、こういうのが続けば、共通の情報源として非常に有用なものになるはずである。Vol.2を期待します。