U2 「Achtung Baby」


Achtung Baby ジャケット

 「Zooropa」「POP」と続くハイパーモダニズム三部作の第一作。僕はこれが彼らのキャリアを通しての最高傑作だと思う。

 はっきりいって、この作品を出す前あたり、彼らは非常に苦しいポジションにいた。簡単に言うと、とてつもなく暑苦しく鬱陶しいイメージがこびりついていたのだ。それこそが彼らが80年代に追求してきた誠実さの帰結でもあるのだが、いにしえのロック敗北美学なんかも透けてみえるその姿は、やはり余りにもダサく、うざったかった。「魂の叫び」などというレコード担当者を撲殺したくなる邦題がピッタリだったくらいだから。


 ボノは非常に頭のいい人だから、そこらへんは承知していただろう。愚直なイメージがある U2 であるが、ブライアン・イーノをプロデューサーに引き込んでターゲットをアメリカに移した経緯を見ても、彼らは非常にクレバーにバンドの方向転換をやっていることが分かる。

 「Achtung Baby」でのイメチェンは、ビジュアル面の変化(女装や悪魔の扮装とは予想外だったな、やはりアントン・コービンは偉大だ)、ヨーロッパ回帰(これで以前の写真に感じられた鼻血の吹き出しそうな暑苦しい印象を回避した)、そしてツアーで明らかになるメディアのオーバーロードを反映したロックンロールというコンセプトに依る。またその方向転換を可能にしたのは、80年代「ソウルの敵」と彼らが見なしていたシニシズムの導入にあるのは間違いない。


 一般に以上のようなコンセプトワークの勝利のみ語られることが多いが、ここでの変化が彼らの音楽性に与えた影響は意外に言及されてない。かつての彼らはモノクロなロックンロールを目指す余り、ポップミュージックとしてのおいしいメロディーなどからは背を向けていた感があった。一般に最高傑作とされる「ユシュア・トゥリー」にしてもB面(死語か!)の楽曲は明らかに弱い。これは最近のインタビューでボノ自身も語っていた。

 このアルバムで導入された非常に抜けのいいカラフルなメロディーは明らかに彼らの芸域を広げたし、シングルヒットした "Real Thing"、"Misterious Ways" はそうしたメロディーが彼ら固有のリリシズムと調和した名曲である。第一弾シングルとなった "The Fly" のマンチェ・ビートの導入ばかりが取り沙汰されたが、アンビエント的な楽曲や土俗的な感性をハウスミュージックで処理したような楽曲もあり、リズムも結構多彩で以前のような一本調子でなく聞きやすい。最後二曲が圧倒的に暗いのも信用できる。


 これを書いていて気付いたのだが、U2 の方向転換というのはオリジナル・アルバム三枚毎に行われている。となると、次のアルバムが新たな第一歩となるのだろうか。

 97年の「POP」は、当時隆盛を誇ったテクノを大胆に導入した(つもり)が、彼らの時流読み自体は間違ってなかったものの、バンドサウンドや楽曲に対しては何の必然性も持てない実に詰まらない駄作だった。

 NME が伝えるところによると、次作は再びイーノ師匠をプロデューサーに向かえ、「JOY」をテーマにしたアルバムになるそうだ。「悦びを産み出すのはとても難しいことなんだ」とイーノ師匠はのたまう。ということは、エッジの至高のギターサウンドが聴ける日も近そうだ。楽しみでならない。


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初出公開: 1999年04月18日、 最終更新日: 2000年01月04日
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